幸福 原 民喜
幸福 原 民喜
二人の少女らの手紙は
お互に己(そ)の不幸を語り合つた。
『私はほんとに弱い淋しい女なの
それなのに 世の中は
針の樣に尖りすぎてるのよ。』
『私もほんとに悲しいよ
どうして こんなにまでも
味氣ない 生活でせう。』
ある嵐の晩 二人の少女は
不幸を嘆いて 坂道を歩んだ。
『だけど今が一番幸な時ではなくつて?』
『今が……あゝさうねえ……』
『私こう思ふの、希望や喜びが
滿ちて居るからこそ
こんなに悲しまれるのよ。』
『きつとさうよ、
ほんとに不幸な人は
泣きもしないわね。』
二人が坂を登つた時
星は大きく輝いてゐた。
[やぶちゃん注:前と同じく、大正一二(一九二三)年五月発行の『少年詩人』創刊号に所収。
底本は一九七八年青土社刊「原民喜全集 Ⅰ」の拾遺集を用いたが、戦前の創作なので、恣意的に漢字を正字化した。
私は確信犯でこの主話の女主人公は原節子以外には演じられないと大真面目に思う。]

