町 原民喜
町
神經過敏のキテキが五時とよんだ。
鳥が西へ走り出す。
がたがたがたと馬車が往く。
靑い服がたゞよひたゞよひ
中をきりあく自轉車
魚屋の魚の目が光る
夕日がとんとんしづみ出す。
もう三十分たつた。
どこから來たのか木の葉一つ。
[やぶちゃん注:前掲と同じく、原民喜がすぐ上の兄守夫と出した兄弟同人誌、大正九(一九二〇)年九月号『ポギー』三号に所収。「中をきりあく自轉車」の「きりあく」は底本も流石に右にママ注記を打つ。意味不詳。「きりさく」(切り裂く)の意か、或いは「切り開く」か。まさか、ギリヤーク尼ヶ崎ではあるまい(しかし、ギリヤーク尼ヶ崎がここであの奇体な格好で自転車で走り抜けるとサイコーなんだけどなぁ……)。「がたがたがた」の「がた」の二回以降は底本では踊り字「〱」で、「〲」ではない。しかし、かく表記した。「とんとん」の後半は底本では踊り字「〱」。
原民喜の分かち書き形式のこうした近代詩の中では、現存する最古のものと思われる。
底本は青土社版「原民喜全集 Ⅰ」の「拾遺集」に拠ったが、戦前の作品であるので、恣意的に漢字を正字化した。]

