裏ノ秋 原民喜
裏ノ秋
梨一つ落ちて二つにわれにけり。
夏草は刈られて小さし納屋の前
コスモスの花咲き滿つる白い壁。
犬眠る秋日弱し蟲しづか。
[やぶちゃん注:前掲と同じく、原民喜がすぐ上の兄守夫と出した兄弟同人誌、大正九(一九二〇)年九月号『ポギー』三号に所収。
原民喜の分かち書き形式のこうした近代詩の中では、現存する最古のものと思われる。但し、本詩篇は四行総てがきっちりとした五七五の形式であり、二行目に句点はないものの、俳句の四句組句と採る方がいいのかも知れない。
底本は青土社版「原民喜全集 Ⅰ」の「拾遺集」に拠ったが、戦前の作品であるので、恣意的に漢字を正字化した。]