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2016/05/02

忘れがたみ 原民喜 (恣意的正字化版) 附やぶちゃん注 「耳」

   耳

 

 もともと、よく訓練された耳ではなかつた。人の云ふことを聞き違へることもなかつたかはりに、人の口眞似を巧みにこなすことは出來なかつた。活々した抑揚とか、快い發聲法はなく、ただ内に閃くもの、迸るものに隨つて聲を出すのであつた。その調子は時に唐突でもあつた。

 音樂も語學も身につけることが出來なかつたが、それだけに名曲を聽きたがつたり、英語の單語を覺え込まうとした。その耳が、病氣のすすむに隨つて、だんだん冴えて行つた。見えない所でする微かなもの音で、人の立居振舞や氣分まで察することが出來たし、他所の家のラジオではつきりと報道を聽きとることもあつた。耳はまた、しーんとして夜の靜寂を貫き流れる聲なき聲に聽き入らうとしてゐた。

 私はその耳にあまり優しい言葉を囁かなかつたが、だが、竊かにこの頃懷ふことがらを、その耳は他界にあつて聽きとるであらうか。

 

[やぶちゃん注:「迸る」「ほとばしる」。]

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