芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 輿論(二章)
輿論
輿論は常に私刑であり、私刑は又常に娯樂である。たとひピストルを用ふる代りに新聞の記事を用ひたとしても。
又
輿論の存在に價する理由は唯輿論を蹂躪する興味を與へることばかりである。
[やぶちゃん注:大正一三(一九二四)年四月号『文藝春秋』巻頭に前の「醜聞」二章と後の「敵意」「ユウトピア」「危險思想」「惡」の全八章で初出する。標題「輿論」は「よろん」で世間の大多数の人の意見、一般市民が社会や社会的問題に対してとる態度や見解の謂い。「輿」の原義には「多い・多くの・大勢・諸々」「万物を載せる(まさに「輿(こし)」である)大地」「物事の始まり」の他、実は「召使い・地位の低い人・下僕」の謂いもある(ここでニンマリする私がいる)。
・「私刑」「しけい」。法に拠らずに個人や集団が勝手に犯罪者などに加える制裁。私的制裁。リンチ(lynch:人を私刑によって殺すこと。一七七〇年代のアメリカのバージニア州で私的法廷を主宰していた治安判事ウイリアム・リンチ(Wiliam Lynch)の名前を語源とする)。
・「蹂躪」「じうりん(じゅうりん)」で既注の「蹂躙」に同じい。]
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