芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 企圖(二章)
企圖
成すことは必しも困難ではない。が、欲することは常に困難である。少くとも成すに足ることを欲するのは。
又
彼等の大小を知らんとするものは彼等の成したことに依り、彼等の成さんとしたことを見なければならぬ。
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年四月号『文藝春秋』巻頭に、前の「賭博」(三章)「懷疑主義」「正直」「虛僞」(三章)「諸君」(二章)「忍從」と合わせて全十三章で初出する。「企圖」(きと)とは、「あることを行おうと企(くわだ)てること・その企て・目論(もくろ)み」の謂い。
・「成すことは必しも困難ではない。が、欲することは常に困難である。少くとも成すに足ることを欲するのは。」自然(じねん)流で訳してみる。
――あることを成し遂げることは必ずしも困難なことではない。しかし、あることを切に心から欲求し、望むとこは常に困難ことである。少なくとも、成し遂げるにたるだけの素晴らしいことをしようと心から望むことは著しく難しく、それは成就しないと言ってよい。――
・「彼等の大小を知らんとするものは彼等の成したことに依り、彼等の成さんとしたことを見なければならぬ。」同じく、自然流で訳してみる。
――ある者たちの器量や度量や意気がどれほどのものか――覚悟を持った有意に立派な大きな素晴らしいものであるか、それとも、吝嗇(けち)臭くさもしくしょぼいものであるか――を知ろうとする者は、まず、そのある者たちが実際に成した事実・現実を判断材料とした上で、そのある者たちが当初、成し遂げようとした――しかし、成し遂げることは遂に出来なかったこと――即ち、その企図を知り、それらを総合して最終的な判断を下さねばならない。――]
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