それは雨の 立原道造
それは雨の
それは雨のはげしい夜だつた
私たちは火鉢のそばでその物音に
もう話のなくなつた耳を借してゐた
一つも聞き洩らすことのないやうに
雨が何を語つたか 私たちが何を語つたか
誰もがそれを忘れてゐた ふだんのやうに
長い長いしづかさだつた
おそらく あの夜 空に消えた千の雨粒
私たちは光りながら死ぬのだらうと
誰が誰に小聲で語つたのだらうか
[やぶちゃん注:すでに述べた底本の「エチユード」より。]
« かつてひとりが 立原道造 | トップページ | 鏡の歌 立原道造 »
それは雨の
それは雨のはげしい夜だつた
私たちは火鉢のそばでその物音に
もう話のなくなつた耳を借してゐた
一つも聞き洩らすことのないやうに
雨が何を語つたか 私たちが何を語つたか
誰もがそれを忘れてゐた ふだんのやうに
長い長いしづかさだつた
おそらく あの夜 空に消えた千の雨粒
私たちは光りながら死ぬのだらうと
誰が誰に小聲で語つたのだらうか
[やぶちゃん注:すでに述べた底本の「エチユード」より。]