芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 罪
罪
道德的並びに法律的範圍に於ける冐險的行爲、――罪は畢竟かう云ふことである。從つて又どう云ふ罪も傳奇的色彩を帶びないことはない。
[やぶちゃん注:前章の「罰」――「罰せられぬことほど苦しい罰はない。それも決して罰せられぬと神々でも保證すれば別問題である。」の黒いマントを跳ねらかすと、鮮やかな赤い裏地が翻った。遂に「罰」を受けないのなら……私はあらゆる快楽としての「罪」を犯すことも厭わぬ……何故なら、それこそが、私芥川龍之介がどっぷりと漬かり込んできた偏愛する中国古来の伝奇小説の、洋の東西を問わぬ悪漢小説、ピカレスク・ロマン、時代も人物も超越しきったパラレル・ワールドとしての浄瑠璃歌舞伎、おどろおどろしい何でもありの江戸戯作、心惹かれてきた泉鏡花先生の深き碧き淵底へと私をいざなって呉れるから…………
・「道德的並びに法律的範圍に於ける冐險的行爲」やや龍之介にしては不全な表現である。「範圍に於ける冐險的行爲」では「罪」とすることは出来ないからである。ここは「道德的並びに法律的範圍の外緣へと出でんとする冐險的行爲」であろう。それが故意であるか未必の故意であるか全くの過失或いは偶然に拠るものかは問わない。問わないものの、その罪に相当する行為を成す者自身(罰する側ではないで注意)がわくわくするように「冐險的」と感じ、「傳奇的色彩を帶び」た「行爲」である「罪」とは確信犯か故意でないと面白くない。]
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