芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 身代り
身代り
我我は彼女を愛する爲に往々彼女の外の女人を彼女の身代りにするものである。かう言ふ羽目に陷るのは必しも彼女の我我を却けた場合に限る訣ではない。我我は時には怯懦の爲に、時には又美的要求の爲にこの殘酷な慰安の相手に一人の女人を使ひ兼ねぬのである。
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年六月号『文藝春秋』巻頭に、前の「徴候」(二章)「戀愛と死と」と、後の「結婚」(二章)「多忙」「男子」「行儀」と合わせて全九章で初出する。このアフォリズムには私自身も内心忸怩たるものを感ずる、あなたと同様に。
・「却けた」「しりぞけた」。
・「怯懦」「けふだ(きょうだ)」。臆病で気が弱いこと。意気地(いくじ)のないこと。]
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