芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 日本人
日本人
我我日本人の二千年來君に忠に親に孝だつたと思ふのは猿田彦命もコスメ・テイツクをつけてゐたと思ふのと同じことである。もうそろそろありのままの歷史的事實に徹して見ようではないか?
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年五月号『文藝春秋』巻頭に、前の「兵卒」(二章)「軍事教育」「勤儉尚武」、後の「倭寇」「つれづれ草」と合わせて全七章で初出する。
・「猿田彦命」「さるたひこのみこと」と読む。記紀神話の天孫降臨に際し、その道案内をしたとされる異形の神。容貌魁偉にして、鼻は高く(実際に神楽や祭りの舞いなどでは赤面の天狗の面を猿田彦役が被るケースが多く見られる)身長は七尺を越える(二メートル強)とする。後世には庚申信仰や道祖神などとも結びついていて、比較的、メジャーな神である。然しながら、彼の髪は蓬髪の白髪で描かれることが多く、私は実はコスメチックがピンと来ない。黒々とした豊かな黒髪でビシッと決め、勇猛果敢に戦っても結髪一糸も乱れずとするなら、寧ろ、私は素戔嗚命(すさのおのみこと)や日本武尊(やまとたけるのみこと)としたくなるのである。実は何で「猿田彦命」なのか、高校時代からずうっと気になってしょうがないのである。諸注も遂にそれを解き明かして呉れていない。何方か、この老いぼれの永年の悩みを解いて下さらぬか? 【緊急追記】……とここでアップしたところが、三女のアリスがお散歩連れてってワンワンを始めたので散歩に出た……犬……犬猿……猿――うん?!――猿! そうだ! これは「猿田彦」神に意味があるんじゃあ、ないんだ! 「猿」なんだ! 龍之介は進化論に引っ掛けて日本神話をパロったのだ! 猿、ホモ・サピエンス以前の猿人や猿「もコスメ・テイツクをつけてゐたと思ふの」は馬鹿げたことだ、と龍之介は言っているんだ! さすれば、まっこと、面白や! 中国の孫悟空もインド神話のハヌマーンも実はダーゥイン以前に猿から人が進化していたと無意識に感じていたんじゃないか? などと考えると、これまた面白いぞ! 四十数年の不審が一瞬の「機」を以って雲散霧消! アリス禪師! 五体投地して謝しまする!
・「コスメ・テイツク」cosmetic。白蠟(はくろう:虫白蠟 insect wax。別名をイボタ蠟などとも称する。キク亜綱ゴマノハグサ目モクセイ科イボタノキ属イボタノキ(水蝋樹・疣取木)Ligustrum obtusifoliumに群生する昆虫綱有翅昆虫亜綱半翅(カメムシ)目同翅(ヨコバイ)カイガラムシ上科カタカイガラムシ科イボタロウカイガラムシ属イボタロウカイガラムシ Ericerus pela(一属一種)が分泌するものから採取した動物性油脂)やパラフィン(paraffin:石油から分離される白色半透明の固体)などに香料を加えて棒状に練り固めた男性用の固形髪油。]
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