芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 諸君(二章)
諸君
諸君は靑年の藝術の爲に墮落することを恐れてゐる。しかしまづ安心し給へ。諸君ほどは容易に墮落しない。
又
諸君は藝術の國民を毒することを恐れてゐる。しかしまづ安心し給へ。少くとも諸君を毒することは絶對に藝術には不可能である。二千年來藝術の魅力を理解せぬ諸君を毒することは。
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年四月号『文藝春秋』巻頭に、前の「賭博」(三章)「懷疑主義」「正直」「虛僞」(三章)と、後の「忍從」「企圖」(二章)と合わせて全十三章で初出する。「諸君」一章目をを読むと、「諸君」は「靑年」に代表される未成年の少年少女或いは今少し広げて若い人々を除いた大人連中を指すように読んで、読者の過半は不愉快に思ったが、二章目を読むに及んでそこで苦虫を潰した彼らもやはり過半はニンマリした。そこでは「諸君」とは「國民」に対峙する者ども、「大日本帝国」の政治家や官僚・軍人を限定していたことに気づくからである。
・「二千年來」因みに二千年前の日本は弥生時代である。皇国史観に立つと垂仁天皇の治世となるが、馬鹿馬鹿しくてこれを書くだけでやめにしておく。]
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