夏へ 立原道造
夏へ
ここにかうして待つてゐる 或る時の
僕の少年 僕の祕密……
さうして僕の 知らない人の
忘れた 誰かの とおい出發
人は ハンカチをふつてゐる
人は 窓からほほゑむ
人は お辭儀をする
さうしてどこかへ行くのだらう――
(さう 僕は 帽子を用意した
それから紙より白い肌衣を
さうして さがしに行くのだらう)
プラツトフオームで手をふつた 或る時の
僕の昨日 僕の少年……あれから
あの人だけゐない すぎた幾つもの出發
[やぶちゃん注:私にはこの詩篇はデジャ・ヴである――]