優しき歌――旅のをはりに 立原道造
優しき歌
旅のをはりに
かへつて來たのが
いけなかつた?……私らは
曇り日の秋の眞晝に 池のほとりの
丘の上では いつかのやうな話が出來ない
黃ばんだあちらの森のあたりに
明るい陽ざしが あればいいのに!
……なぜ こんなに はやく 私らの
きづいたよろこびは 消えるのか
手にあまる 重い荷のやうに
昨日のしあはせは 役に立たない
私の見て來た 美しい風景らが
おまへの眼には とほくみなとざされた……
私らは 見知らない人たちのやうに お互ひの
足音に 耳をすませ 最初の言葉を待つてゐる
[やぶちゃん注:【二〇二六年四月四日修正】所持する一九八八年岩波文庫刊「立原道造詩集」(杉浦明平編)の「後期草稿詩篇」を元に、恣意的に正字化したものである。]
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