優しき歌――光のなかで 立原道造
優しき歌
光のなかで
風は あちらの梢で
僕を招いてゐるが 僕は
ここを離れずにゐる
裸の眼にうつる靑い空と白い雲と……
僕は いまからは 明るい
太陽と光とばかりを
とらへようとおもふ
影のなかに ながいこと ひとりでゐたが
おまへを おもふと 僕は
たしかに つよく 力にみちて來る
ここのせまい身のまはりが
こんなにひろく豐かになる
しかし それは飾られたのではない
僕らの心が 耐へて さうなるのだ
[やぶちゃん注:底本の「後期草稿詩篇」より。]
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