芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 結婚(二章)
結婚
結婚は性欲を調節することには有効である。が、戀愛を調節することには有効ではない。
又
彼は二十代に結婚した後、一度も戀愛關係に陷らなかつた。何と言ふ俗惡さ加減!
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年六月号『文藝春秋』巻頭に、前の「徴候」(二章)「戀愛と死と」「身代り」と、後の「多忙」「男子」「行儀」と合わせて全九章で初出する。
・「結婚は性欲を調節することには有効である。が、戀愛を調節することには有効ではない。」正論而真理命題也!
・「彼は二十代に結婚した後、一度も戀愛關係に陷らなかつた。何と言ふ俗惡さ加減!」「彼は二十代に結婚した」芥川龍之介が塚本文と結婚したのは大正七(一九一八)年二月二日(田端の自宅にて)、龍之介満二五歳(彼の誕生日は明治二五(一八九二)年三月一日)の時で、文さんは満十七歳(明治三三(一九〇〇)年七月四日生まれ)であった(婚約は前年末十二月中)。
以下は私のモノローグである――
……芥川センセ! 嘘はいけませんね、嘘は! あなたはこの時点まででも、僕の知ってるだけでも、何人もあったじゃありませんか! それにこの後にだって! もしかして、冥界のあなたは、
……『確かに……しかし……私のそれはただの恋とも呼べぬ愚かな遊びに過ぎなかった……愁人秀しげ子などとのそれは物理的な肉体上の交合に過ぎない忌まわしい関係であって恋愛とは程遠いものだったのだ……その他の女人(にょにん)たちも結局は似たり寄ったりだつた……いや……この後の片山廣子とだけなら……真のそれたり得たかも知れないが……それも私はそうした美しい恋愛関係に陥る前に自ら截ち切ったのだ……』…………
とでもおっしゃるつもりなのですか!?!…………]
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