徑の曲りで 立原道造
徑の曲りで
ほてつた 私の耳に
もう秋! おだやかな 陽氣な 陽ざしが
林のなかに ささやいてゐる
蜂蜜のやうに 澄んで……
私らは 歩いて行く……風が
鳴つてゐる 木の葉が
光つてゐる――見おぼえのあるやうに
とほくの方で あちらの方で
花の名 鳥の名は 私らの
心のなかで またくりかへしては告げられる
もう見られないものまでも
昨日 ふたたびあたらしく はじまつた
しかし それが こんなにたよりないのだらうか
……
[やぶちゃん注:底本の「後期草稿詩篇」より。この詩篇の第一連は、生前の道造が最後に構想していた幻の詩集「優しき歌」の原稿(当時、中村真一郎が所蔵)をもとに推定された詩集「優しき歌」(「序」及び「Ⅰ」から「Ⅹ」のナンバーを持つ詩篇群)の第五曲の「また落葉林で」の第一連(リンク先は私の電子テクスト)、
いつの間に もう秋! 昨日は
夏だつた‥‥おだやかな陽氣な
陽ざしが 林のなかに ざはめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに
と非常によく似ている。]
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