僕は おまへに――夜の歌 立原道造
僕は おまへに
夜の歌
僕は おまへに
何も ねがはなければ
何も 強(し)ひはしない(――おまへはふたたびかへらないだらう)
そして 拒むことなく おまへを
去らせる 夜のなかへ なほとほく
つめたい雨が降つてゐるのを
僕は おまへに をしへよう
おまへが そこで そのやうに
ためらつてゐるのは 何であるかを
僕は とうに 知つてゐるのだ
おまへの大きな聲が
犬たちの吠えるのを叱りながら
きこえなくなるときに
やうやく 僕は ひとりになつて
僕の内の言葉に耳をすます
[やぶちゃん注:底本の「後期草稿詩篇」より。]