芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) アキレス
アキレス
希臘の英雄アキレスは踵だけ不死身ではなかつたさうである。――即ちアキレスを知る爲にはアキレスの踵を知らなければならぬ。
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年二月号『文藝春秋』巻頭に、前の『「虹霓關」を見て』「經驗」と、後の「藝術家の幸福」「好人物」(二章)「罪」「桃李」「偉大」と合わせて全九章で初出する。「アキレス」はギリシア神話に登場する無敵を謳われた英雄で、ホメーロスの叙事詩「イーリアス」の主人公(特に足が速かったとされて「イーリアス」では『駿足のアキレウス』」と形容されている)。ギリシャ語では「アキレウス」(ラテン文字転写・Achilleus)であるが、ラテン語では「アキレス」(Achilles)である。アキレウスはプティア(Phthía:古代ギリシャのテッサリア(Thessalía:現在のギリシャ中部)の最南部)の王で英雄として知られたペレウス(Pēleus)と海神ネレウス(Nēreus)の娘テティス(Thetis)の間に生まれたが、母テティスはわが子を愛するが故に、その肉体を不死身にしようと、冥府の川ステュクス(Styx:ギリシャ神話版三途の川)にまだ赤子であったアキレウスの全身を浸したが、その時、母親が摑んでいた踵(かかと)だけが水に漬からず、踵の部分のみ、生身のままで残ってしまった。アキレウスは長じて最大の英雄となり、トロイア戦争(小アジアのトロイアに対してミュケーナイを中心とするアカイア人の遠征軍が行ったとするギリシア神話上の戦争)で活躍するが、ついにはパリス(Paris:「パリスの審判」で知られるトロイア戦争の原因を作ったトロイアの王子)に弱点の踵を弓で射抜かれ、命を落とした(この伝説から「踵骨腱(しょうこつけん):足にある脹脛の腓腹筋とヒラメ筋を踵の骨にある踵骨(しょうこつ)隆起に附着させる腱。人体で最も強く最大の腱であり、歩行や跳躍などの運動の際に最重要な部位である)を「アキレス腱」と呼び、転じて「致命的な弱点」の代名詞ともなった(以上の主節部分はウィキの「アキレス腱」及びそこからリンクした複数のウィキを参照した。くれぐれもウィキの「アキレウス」参照ではないので注意されたい)。にしても……芥川先生……あの女には……先生のアキレス腱……知られちゃった……ですね…………]
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