旅裝 立原道造
[やぶちゃん注:以下、先日、古本屋(恐らく古本屋に入ったのは十数年振り)でタダ同然の安値で買い求めた一九八八年岩波文庫刊「立原道造詩集」(杉浦民平編)から、私がこのブログ・カテゴリ「立原道造」で未電子化である詩篇を電子化する。但し、私のポリシーに則り、漢字は恣意的に正字化する。まずは、底本「拾遺詩篇」より引くが、各篇の初出は附されておらず、最後の解説には、初出についてはは底本の底本である角川書店第三次版「立原道造全集」(一九七一~一九七二年刊)の編注にくわしい、とするのみである。私は当該全集を所持していないので各篇の書誌は記せない。悪しからず。ただ、解説によれば、この「旅裝」から「八月旅情の歌」までの詩篇は昭和一〇(一九三五)年から翌年にかけて雑誌に発表されたものとする。]
旅裝
まぶしいくらゐ 日は
部屋に隅まで さしてゐた
旅から歸つた 僕の心……
ものめづらしく 椅子に凭(よ)り
机の傷を撫でてみる
机に風が吹いてゐる
――それはそのまま 思ひ出だつた
僕は手帖をよみかへす またあたらしく忘れるために
――その村と別れる汽車を待つ僕に
平野にとほく山なみに 雲がすぢをつけてゐた……
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