芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 勤儉尚武
勤儉尚武
「勤儉尚武」と言ふ成語位、無意味を極めてゐるものはない。尚武は國際的奢侈である。現に列強は軍備の爲に大金を費してゐるではないか? 若し「勤儉尚武」と言ふことも痴人の談でないとすれば、「勤儉遊蕩」と言ふこともやはり通用すると言はなければならぬ。
[やぶちゃん注:大正一四(一九二五)年五月号『文藝春秋』巻頭に、前の「兵卒」(二章)「軍事教育」、後の「日本人」「倭寇」「つれづれ草」と合わせて全七章で初出する。「勤儉尚武」は「きんけんしやうぶ(しょうぶ)」と読み、仕事に勤め励み、倹約を重んじ、武勇を「尊(たっと)ぶ」(「尚」はその意)ことを言う。
・「奢侈」「しやし(しゃし)」と読む。度を外れて贅沢なこと。
・「列強は軍備の爲に大金を費してゐる」小野圭司氏の論文「第1次大戦・シベリア出兵の戦費と大正期の軍事支出-国際比較とマクロ経済の視点からの考察-」(PDF)の「表1:20世紀初頭の日本と欧米列強の軍事・経済指標(ドル換算名目値)」に出る数値とそこに関わる小野氏の解説がすこぶる参考になる。必見。GNPに対する軍事支出と海軍費の急激な侵食、特に日英米の海軍費の突出に着目されたい。
・「遊蕩」「いうたう(ゆうとう)」でここは広義の「恣(ほしいまま)に振る舞うこと」「放蕩」等のニュアンスだろうが、「遊蕩」には特に「酒や女遊びにふけること」の謂いがあるから、この一章も武人たる軍人には前の「兵卒」並みに許し難い暴言と言えよう。]
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