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2016/06/23

現在進行中

現在進行中の芥川龍之介「奉教人の死」(自筆原稿復元版)の冒頭注をちょっと紹介する――

芥川龍之介「奉教人の死」(自筆原稿復元版)

[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館デジタルコレクションのこちらの画像を視認した。これは朱の校正記号が入った決定稿であり、岩波旧全集の「後記」の初出についての異同記載とよく一致することから、大正七(一九一八)年九月一日発行『三田文学』初出版の原稿と考えてよく、旧全集が引用する過去の普及版全集の「月報」第四号所収の「第二卷校正覺書」に『南部修太郎氏所藏の「奉教人の死」の原稿を拜借させていただけましたので、大いに參考えになりました。』とある『南部修太郎氏所藏の「奉教人の死」の原稿』と同一のものではないかと推定される。なお、旧全集後記は初出との校合は行っているが、この決定稿との校合をしているわけではない

 私は既に、

岩波旧全集版準拠   「奉教人の死」

作品集『傀儡師』版準拠「奉教人の死」(上記との私の校異注記を附記)

及び、芥川龍之介が典拠とした(龍之介は実は、『『奉教人の死』の方は、日本の聖教徒の逸事を仕組んだものであるが、全然自分の想像の作品である』と明言し、『『奉教人の死』を發表した時には面白い話があつた。あれを發表したところ、隨分いろいろな批評をかいた手紙が舞ひ込んで來た。中には、その種本にした、切支丹宗徒の手になつた、ほんものゝ原本を藏してゐると感違ひをした人が、五百圓の手附金を送つて、買入れ方を申込んだ人があつた。氣毒でもあつたが可笑しくもあつた』などと書き(「風變りな作品二點に就て」(大正一五(一九二六)年一月『文章往來』)。リンク先も私の電子テクスト)、書簡(昭和二(一九二七)年二月二十六日附秦豐吉宛書簡(岩波旧全集書簡番号一五七七)の二伸では『日本版「れげんだ・あうれあ」は今から七八年前に出てゐる。但し僕の頭でね、一笑』などと平然と嘘をついているが)、

斯定筌( Michael Steichen 1857-1929 )著「聖人伝」より「聖マリナ」

を電子化している。

 復元に際しては、当該原稿用紙の一行字数二十字に合わせて基本、改行とした。但し、芥川龍之介は鈎括弧を一マスに書かずにマスの角に打つ癖があり、また以下に示す通り、抹消と書き換えを再現しているため、結果、実際の復元テキストでは一行字数は一定しない。

 原稿用紙改頁(一行字数二十字十行・左方罫外下部に『十ノ廿 松屋製』とある)を一行空けで示した。

 ルビはブログ版では( )同ポイントで示した。これによって当時の芥川龍之介が原稿にどれほどのルビを振っていたかがよく判る。実はそれ以外の殆どのルビは校正工が自分勝手に振っていたのである。これはあまりよく知られているとは思われないので、特に明記しておく。最初の全集編集の際、堀辰雄が原則、ルビなしとするべきだと主張した(結局、通らなかった)のはそうした当時の出版事情があったからである。

 抹消は抹消線で示し、脇への書き換え及び吹き出し等によるマス外からの挿入は〔 〕で示した。

 判読不能字(龍之介の抹消は一字の場合にはぐるぐると執拗に潰すことが多いために判読が出来ないものが多い)は「」で示した。

 朱で入っている校正記号は原則、無視した。

 漢字は龍之介が使用しているものに近いものを選んだので略字と正字が混在している。判断に迷った字は正字で示した。

 なお、現行との重大な異同点は主人公「ろおれんぞ」が一貫して「ろおらん」である点で、これは読んでいて相当に印象が異なる。他にも、現行では『「さんた・るちや」と申す「えけれしや」』という教会の固有名がなく、一貫して教会の一般名詞「えけれしや」で通されている点、主人公に懸想する娘の当初の設定を鍛冶屋としていたことが抹消・書き換えで判明する。また、龍之介が仮想的に再現しようとした当時の独特の語り口の表現に、かなり苦労している様子が抹消や書き換え・挿入ではよく伝わってくるように私には思われる。この私の原稿復元版はそうした箇所を見るだけでもかなり興味深いものと思う。]

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