芥川龍之介「侏儒の言葉」(やぶちゃん合成完全版 附やぶちゃん注釈) 自由思想家
自由思想家
自由思想家の弱點は自由思想家であることである。彼は到底狂信者のやうに獰猛に戰ふことは出來ない。
[やぶちゃん注:「自由思想家」は古代ギリシャ・ローマの哲人の誰彼、バラモン教や釈迦と同時代のそれら、西洋近世の神学者のそれらではなく、広義の、権威や教条に拘束されず、自由に対象を考え、思想を展開する人間を指している。正直、私は時々、狂信者の群れの呆けた恍惚の表情や関係妄想の最たる宗教的愉悦の表明を見聴していると、私も一度は自由思想を捨てて、「狂信者のやうに獰猛に戰」って虫ケラのように死に瀕してみる(「瀕してみる」である。「死ぬ」のは願い下げである)のも悪くはないと思うのを常としている。そうして未だ嘗て「獰猛に戰」って死を厭わぬほど「狂信」してみたいと思い得る対象に、これ、一度として出逢ったことがないことをも、少しばかり哀しく思うことをも常としている。]
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