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春が來たなら
春が來たなら 花が咲いたら
本のかげに小さな椅子に腰かけて
ずつと遠くを見てくらさう
そしてとしよりになるだらう
僕は何もかもわかつたやうに
灰の色をした靄(もや)のしめりの向うの方に
小さなやさしい笑顏を送らう
僕は餘計な歌はもう歌はない
手をのばしたらそつと花に觸れるだらう
春が來たなら ひとりだつたら
[やぶちゃん注:すでに述べた底本の「エチユード」より。私は今も軽井沢の山深い別荘のテラスに道造がこうしているような気がする。]