芥川龍之介 手帳2―9
《2-9》
○男 女を愛しその女他の男と結婚す 蓋女男を愛ししかも男の愛を知らざる也 後 男嫉妬の爲に夫を殺す 女はじめて男の love を知るの thema
[やぶちゃん注:強いて言えば、「開化の殺人」(大正七(一九一八)年七月)であるが、遙かに複雑で、しかも、「女はじめて男の love を知るの thema」ではないから違う。既に注したが「Thema」は「theme」(テーマ:主題)の語源のドイツ語の綴りであって誤記ではない。向後はこの注は略す。]
○利休のアンニユイ
[やぶちゃん注:「アンニユイ」はアンニュイ(フランス語:ennui)で、退屈・倦怠。]
○新井白石――These + Antithese
[やぶちゃん注:「These」「Antithese」もドイツ語で、例のヘーゲルの弁証法の「テーゼ」(定立)と「アンチテーゼ」(反定立)。]
○荻生徂徠――紫雲
[やぶちゃん注:これは江戸中期の大儒荻生徂徠(をぎふそらい(おぎうそらい) 寛文六(一六六六)年~享保一三(一七二八)年)の末期に関わるエピソードと関係があるメモと読んだ。『日本医史学雑誌』第五十四巻第二号(二〇〇八年)の京都蘇生会総合病院の杉浦守邦氏の「荻生徂徠の死因」(PDF)に(ピリオド・コンマを句読点に代えた)、『徂徠の臨終にあたっての情況については中井竹山の「非徴」に、「徂徠の病むや、日々侍者に宣言して曰く『宇宙俊人の死に必ず霊怪あり,今当に紫雲の舎を覆う有るべし.汝等出でて之れをみよ』と。病せまるに及び、輾転呼号して、紫雲口を絶たず。……以て良死に非ずと為す」とある。これから死の直前に狂騒状態ともいえる脳症状のあったことが推測されるが、別に胸内苦悶を訴えたという記録はない』とあるのが注目される。因みに杉浦氏は徂徠の死因は、『医史学者富士川游は、原念斎の「先哲叢談」に「徂徠、浮腫ヲ病ミテ終ワル」とあるのをひいて、心臓病か腎臓病であろうとしている』のであるが、病態と年齢からみて『心臓病や衝心脚気』『は否定され』、『最初から浮腫が主症状であってこれが再燃を繰り返したこと、病気の経過が』二年にも『及んだこと、安静が保てないため徐々に重症化していったこと、死に際して狂騒状態を呈して妄想または幻覚と見られる尿毒症様症状を示しことなどから、その死因を慢性腎炎と判断して誤りないものと考えられる』と結論なさっておられる。]
○賴山陽――as man
[やぶちゃん注:頼山陽(らい さんよう 安永九(一七八一)年~天保三(一八三二)年)は大坂生まれの歴史家・思想家・漢詩人。主著「日本外史」は幕末の尊皇攘夷運動に影響を与え、日本史上のベスト・セラーとなった。詳しくは参照したウィキの「頼山陽」を見られたい。]
○女が男だと思はれてゐる話 Saint Maria
[やぶちゃん注:芥川龍之介が「奉教人の死」のネタ元でありながら、終生隠し通した、パリ外国宣教会のミカエル・スタイシェン神父(Michael
Steichen 一八五七年~一九二九年)著の「聖人伝」の「聖マリナ」のことである。リンク先は私の古い電子テクストである。]