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« 芥川龍之介手帳 1―18 | トップページ | 4:17 蜩初音 »

2016/07/04

芥川龍之介手帳 1―19~25

《1-19》

Arumadori

[やぶちゃん注:この間取り図はどこのものか不明である。右手に「台所」とあり、中央の空間(?)に書かれてあるのは「湯殿」と読める(可能性の一つとしては、大正六(一九一七)年九月十四日に鎌倉和田塚の下宿から転居した横須賀汐入五八〇番地尾鷲梅吉方の一階の見取り図かも知れない。一九九二年河出書房新社刊鷺只雄編著「年表作家読本 芥川龍之介」によれば、尾鷲氏はかなりの資産家で女中と二人暮らしで、その家の二階の八畳を借りたとある。一階の構造がこれだけあって八畳の部屋が二階にあっても不思議ではないように思われる)。]

 

《1-20》

○磧の場――太郎 婆

往來 屍人屋敷蹟――太郎 平六 阿濃のここへ來る伏線を張る

屋敷跡往來――婆 次郎

廢寺羅生門――太郎 爺 阿濃 平六 爺

羅生門廢寺――侍 沙金 次郎 沙金

屋敷跡――婆 阿濃

[やぶちゃん注:総て「偸盗」のメモである。但し、同作は大正六(一九一七)年四月二十日脱稿(「金剛」乗艦前の二ヶ月前)で七月に発表されているから、どうもこの手帳は必ずしも時系列の順では書かれていないようである。]

 

《1-21》

10924日 桐野利秋 村田新八

 91日 カゴシマシロヤマに入る 官軍圍んでまつ

[やぶちゃん注:西南戦争の城山籠城戦(九月一日~二十四日)を薩軍側から描く近代物の作品プランがあったか。「西郷隆盛」(大正七(一九一八)年一月)はあるが、内容的にはこの記載とは無縁である。

「桐野利秋」(天保九(一八三八)年~明治一〇(一八七七)年九月二十四日)は旧薩摩藩士で陸軍軍人。初めは中村半次郎と称した。薩摩生。通称は晋作。西郷隆盛の知遇を得て鳥羽・伏見の戦いや会津征討で軍功を立てた。維新後、陸軍少将・陸軍裁判所長等を歴任したが、征韓論政変で西郷とともに下野した。以後、鹿児島で私学校運営や西郷派士族の教育などに尽力したが、西南戦争で西郷軍総指揮者として奮戦するも陣中にて額を打ち抜かれて戦死した。

「村田新八」(天保七(一八三六)年~明治一〇(一八七七)年九月二十四日)は薩摩藩士で宮内大丞。西郷隆盛に従って国事に尽力、岩倉遣外使節に随行して欧米を廻り、帰国後には官を辞して西郷隆盛に従って鹿児島に帰郷、砲兵学校監督となった。西南戦争で薩軍大隊長として自決した。]

 

     74                                20

  16                        20

 ――――                 ―――

  444                       00

      74                                  40

 ――――                 ―――

 1184         │400                 400

  1200             3

 ――――

[やぶちゃん注:何の計算式かは不明。原稿の字数か? 当時、雑誌、特に新聞連載の場合には制限があったものとは思う。]

 

《1-22》

○ゲツヨウ、□ゴゴニヂ

[やぶちゃん注:「□」は底本編者によって右にママ注記があるので□が書かれているものらしい。]

 

《1-23》

Ships of in line of bearing advancing towards & firing at others on the bow.

Indian Head

America

fighting edge

[やぶちゃん注:一行目の文章は意味不明。艦砲射撃に関わる叙述か? 識者の御教授を乞う。外も単語としては分かっても、何を目的としてメモランダしたものかが不明。]

 

《1-24》

就眠前  ルブリン0.2

      臭素カンフル0.15

      乳糖0.5

[やぶちゃん注:「ルブリン」不詳。国立国会図書館デジタルコレクションのウンデルリヒ「独乙新方彙」の和訳本(明治一〇(一八七七)年刊)に「第十九類 骨喜乙涅ルフリン及麦奴」とあるが、当該箇所を見ても成分が分からぬ。同薬を含むものの主治は偏頭痛とある。

「臭素カンフル」ウィキの「臭素によれば、『精神的な興奮状態、性欲を鎮める作用があるため』、十九世紀に『おいては、興奮性の精神病の治療薬、鎮静剤、性欲抑制剤として臭化カリウムなどの臭化物を用いた。ただし、毒性があるため、現在ではほとんど用いない』とある。「カンフル」は薬物としての樟脳のそれではなく、単に器官や感覚の蘇生効果用といった接尾語か。

「乳糖」ラクトース(Lactose)。低甘味料で蔗糖の〇・四倍の甘味を有する。]

 

《1-25》

○上甲板

○壁 High

25キロ 配電盤

○變壓器 transformer

 振動變壓器 Accelation transformer etc.

Ampere Metre

 Volt Metre

 Switch board

 detector 檢波器

 Capacity 電氣容量

 Condenser 蓄電

 Transformer

                        coil

○自己感應<

 

                        Inductance

The light with yellow Shade telephone

White and brown dense and hot somewhat irritable

[やぶちゃん注:「Accelation」はママ。Acceleration か。しかし核物理学じゃあるまいし、変圧加速装置というのも、よう、分らん。二箇所の「Metre」も「Meter」の誤りで電流計と電圧計だろう。「Inductance(インダクタンス)はコイルを流れる電流を変化させた際に電磁誘導によってそのコイル或いは他のコイルに発生する起電力の大きさを表わす量。「誘導係数」とも称する。最後の二行も単語の意味は分かるものの、何をメモしたものか分からぬ。軍艦内の緊急通報システムの艦内電話とか、識別色か? お手上げ。識者の御教授を乞う。]

 

○鳴皐歌 遠別離 夢遊天姥吟 關山月 大原早秋 扶風豪士歌 行路難

[やぶちゃん注:総て李白の詩題である。

「鳴皐歌」「めいこうか」で、長短五十一句から成る古体詩「鳴皐歌逞琴徴君」(鳴皐歌 岑徴君ヲ送ル)のことであろう。国立国会図書館デジタルコレクションの画像を参照されたい。

「遠別離」雑言古詩。壺齋散人(引地博信)氏のサイト「漢詩と中国文化」のを参照されたい。

「夢遊天姥吟」雑言古詩「夢遊天姥吟留別」(夢に天姥(てんぼ)に遊べるの吟 留別」。壺齋散人(引地博信)氏のサイト「漢詩と中国文化」のこちらを参照されたい。

「關山月」楽府で五言古詩の辺塞詩。サイト「漢文委員会」のを参照されたい。

「大原早秋」五言詩。ブログ「蛸田窯・作陶日記」のがよい。

「扶風豪士歌」七言の長詩。サイト「漢文委員会」のこちらを参照されたい。

「行路難」雑言古詩。先に挙げたサイト「漢詩と中国文化」のこちらを参照されたい。正直、私が知っていたのは最後のこれだけであった。]

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