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2016/07/13

芥川龍之介 手帳2―32~37及び2-補 / 手帳2~了

《2-32》

James Joyce  The Portrait of the artist as A Young man, The Egoist Ltd. Samuel Butler

[やぶちゃん注:アイルランドの小説家で詩人のジェイムズ・オーガスティン・アロイジアス・ジョイス(James Augustine Aloysius Joyce 一八八二年~一九四一年)の初期作品で自身の半生記風の小説“A Portrait of the Artist as a Young Man”(「若き芸術家の肖像」 一九一六年刊)は最初雑誌“Egoist”に発表されている。しかし、何故、その後ろに続くようにイギリスの作家サミュエル・バトラー(Samuel Butler 一八三五年~一九〇二年)の名が記されているのは、やや不審。]

 

○鳥を胡瓜と白味噌のぬた

○日ざかりや靑杉こぞる山の峽

○瓦屋根にも毛氈干して御蟲干

 

《2-33》

○カルモチン 八十錢 鎭靜劑

[やぶちゃん注:「カルモチン」ブロムワレリル尿素(bromovalerylurea)のかつての商品名。以前はしばしば自殺に使用された薬物として目にした。ウィキの「ロムワレリル尿素から引く(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を省略した)。『一九〇七年に登場し、危険性から二十世紀前半にはバルビツール酸系が主流となり、これも現在では一九六〇年代に登場したベンゾジアゼピン系に取って代わられている』。『日本では「乱用の恐れのある医薬品の成分」として、含有される一般薬の販売が原則で一人一箱に制限されている。日本ではブロムワレリル尿素の催眠剤は習慣性医薬品、劇薬である』。『急性の過剰摂取ではブロム中毒をきたす。血中濃度の半減期が十二日と著しく長く、連用により慢性ブロム中毒をきたすことがあり、症状は多彩で精神、認知、神経、また皮膚の症状を生じる。小脳の萎縮を引き起こすことがある』。『一九〇七年にSoamが創薬し、一九〇八年にドイツのKnoll社がブロムラル(Bromural)の商品名で発売した』。『日本で処方箋が必要な医薬品には、一九一五年発売のブロバリン(Brovarin、日本新薬)が存在する』。『鎮静剤として市販されている商品としては、「ウット」(伊丹製薬)がアリルイソプロピアルアセチル尿素などとの合剤、「奥田脳神経薬」(奥田製薬)がチョウトウ、ニンジンなどの生薬やカフェインなどとの配合剤である。また、鎮静作用から市販の鎮痛剤にも配合されている。ナロン、ナロンエース(大正製薬)がそうである。販売中止となったものに、リスロンS(佐藤製薬)、カルモチン(武田薬品工業)がある』。『ブロムワレリル尿素は一九〇七年(明治四十年)に登場した。名古屋医科大学内科での、自殺を目的とした急性中毒は一九二五年から四年間では催眠劑は』十三・八%で『あったものが、一九三二年(昭和七年)から二年間で』五十五%と『著しく増加し、研究ではブロムワレリル尿素を含有する商品カルモチンに言及されている』。『低用量の使用の際には危険性がより少ないということで、二十世紀前半にはバルビツール酸系が主流となった。さらに、一九六〇年代にこれらより死亡の危険性や依存の危険性が低いベンゾジアゼピン系が登場し、主流となった。アメリカでは、ブロムワレリル尿素を含む臭化物は医薬品としては禁止されている』。『しかしながら、日本の一九五〇~六〇年代の第二次自殺ブームの主役となった薬であり、多くの若者がこの薬で自殺を試みた。毎年約四千人が臭化物中毒で死亡し、ブロムワレリル尿素によるものが最も多かった。そのため、自殺を防ぐ目的で、市販薬では一定量を超えた薬は発売が禁止され、医師が発行する処方箋の必要な処方箋医薬品に変更された。一九六五年に「かぜ薬の承認基準」が設けられた時、ブロムワレリル尿素とアリルイソプロピルアセチル尿素については主作用が催眠作用であるため使用できる薬剤から削除された』。『日本中毒情報センターへのブロムワレリル尿素の問い合わせ件数では、一九九〇年代前半では毎年四十件、二〇〇三年では四件であり(注・日本中の事故の総数ではない)、中毒診療では重要とされる。二〇一〇年の報告でも、不審死からの検死解剖から五年分二千九百三十八件中で六十件と主な原因となっているものではないが、検出が微増して続いているとされる。過量服薬や乱用の危険性があるのに、なぜ現在でも用いられているか理解に苦しむという専門家のコメントがある。薬物乱用(や自殺対策)の専門家である松本俊彦によれば、論外の薬である』。『自殺目的などで大量服用し急性中毒を引き起こす場合がある』。『「カルモチン」で自殺を完遂した、及び同所見が見られた実例(芥川龍之介、金子みすゞ、勝精と勝の知人女性など)もある。一方、太宰治は生涯心中を含めカルモチンによる自殺を幾度と無く図るも何れも未遂に終わり、つげ義春は一九六二年に「ブロバリン」を用いて自殺を図ったが、知人に見つかり未遂に終わっている』。『急性中毒では、見当識(いつ、どこ、だれの認識)の障害、言語障害、歩行障害などをきたす。呼吸抑制も生じる。服薬中止や輸液により数日から、遅くて数週間で回復するが、それ以降に残る症状は障害となったものと考えられる』とある。]

 

○芋蟲の皮 薸蛆(指はらし)

[やぶちゃん注:「薸蛆」は旧全集では「薸疽」となっている。以下の「指はらし」(腫らし)の記載から見て、これは手指や足の指(足趾(そくし))に細菌が感染して起こる、指趾(しし)末節の細菌感染症の一種である蜂窩織炎(ほうかしきえん:白血球の一種である好中球の浸潤病巣組織内に瀰漫(びまん)的に広がってしまい、細胞間質を広範囲に融解して細胞実質を壊死分解させる進展性の化膿性炎症。「蜂窩」とは蜂の巣のことで、病巣標本を顕鏡すると好中球をハチの幼虫に、融解し切らずに残っている間質を巣の仕切り板に見立てた呼称である)を言う、「瘭疽」(ひょうそ:歴史的仮名遣「へうそ」)の誤記である。「爪囲(そうい)炎」「化膿性爪囲炎」とも称し、黄色ブドウ球菌による感染により指先の爪の周りが赤く腫れて痛む疾患である。特に手指の瘭疽」難治性で慢性化し易い。これは民間療法か、芋虫の皮を患部に張るとそれに効く、というメモであろうとは思われる。]

 

○痰咳――セネガ根(甘草ヲマゼル)(一匁餘リヲ一合の水デ五勺)5匁二十錢 三囘

[やぶちゃん注:「痰咳」痰が絡む咳の意で「たんせき」と訓じておく。

「セネガ根」マメ目ヒメハギ科ヒメハギ属セネガ Polygala senega の根。ウィキの「セネガ」によれば、『北アメリカに自生する多年生草本』であるが、『日本薬局方においては本種または変種のヒロハセネガ(P. senega var. latifolia)の根を生薬・セネガとしている。日本ではヒロハセネガを北海道、兵庫県、京都府などで栽培している』。『セネガには去痰作用があり、セネガシロップとして使う他、龍角散、改源咳止液Wなどに配合される』。『元々はアメリカインディアンのセネガ族がガラガラヘビに咬まれた時、応急に用いたもの』とされるが、実際には『そのような効果は期待できず、迷信と思われる』。なお、近年、『セネガ根のセネガサポニン(senegasaponin)類には小腸でのグルコースの吸収抑制等による血糖値上昇抑制活性が認められ』ている、とある。

「甘草」生薬や甘味料として根(一部の種では根茎を含む)を乾燥させたものを用いるマメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza の類。漢方薬に広範囲にわたって用いられ、本邦で製造販売されている漢方薬の約七割に用いられている。「日本薬局方」に於いてはウラルカンゾウ(別名「東北甘草」)Glycyrrhiza uralensis 又はスペインカンゾウ(別名「西北甘草」・「リコリス」Glycyrrhiza glabra から採取されるものを「甘草」の基原植物(生薬の原材料である植物を狭義で示す場合の謂い)とされており、グリチルリチン(グリチルリチン酸)を二・五%以上含むものと規定されている。生薬としては喉の痛みや咳を鎮める効果があるとされる(主にウィキの「カンゾウ属に拠った)。

「一匁」「いちもんめ」は三・七五グラム。

「五勺」一合の十分の一である一勺(しゃく)は十八ミリリットルだから、九十ミリリトル。

「5匁」十八・七五グラム。]

 

〇土瓶に入れ更に鍋に入れて蒸ず 一日二匁を水一合 三囘

[やぶちゃん注:これは前の鎮咳薬の別処方か。即ち、「二匁」(七・五グラム)の「セネガ根」に「水一合」を「土瓶に入れ」、それを「更に」水を張った「鍋に入れて蒸」(くん)じたものを一日に「三囘」服用すると読んでおく。]

 

○古釘のきず――蘇鐡の葉の黑燒 飯でねる

[やぶちゃん注:「蘇鐡」裸子植物門ソテツ綱ソテツ目ソテツ科ソテツ属ソテツ Cycas revoluta。葉は問題ないは(止血・解毒・止痛効果があるとされ、胃薬や血止めの薬にもされる)が、種子には神経毒で発癌性を持つアゾキシメタン(Azoxymethane)を含む配糖体サイカシン (Cycasin) を含み、有毒である。澱粉分が多いことから、沖繩や奄美群島などでは救荒食物として皮を剥いで時間をかけて水に晒した後、それを発酵させたものを乾燥して粉にするといった手間のかかる処理を施して食用としたが、処理不全から有毒物質が残り、それで死んだり苦しむ人が出た。こうした飢饉時の有毒なソテツ食の惨状を特に「蘇鉄地獄」とも呼んだ。なお、一部参考にしたウィキの「ソテツ」によれば、『グアム島など、ソテツ澱粉を常食している住民がいる地域ではALS/PDC(筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症複合、いわゆる牟婁病)と呼ばれる神経難病が見られることがある』とある。母を東北大震災の直後の二〇一一年三月十九日、ALSで母を亡くした私としては引用しない訳には行かぬ。]

 

○レウマチス――酢莖菜(スイバ)を大根下しで下す(7勺) 玉子の白味(1個) 胡椒の粉(1匙) 葱の白根少々入れる 摺鉢でする 固める爲メリケン粉を入れる 玉にして患部(外でもよし)へつける

[やぶちゃん注:「(スイバ)」はルビではなく、本文同ポイント。

「レウマチス」関節痛や関節変形を生じる関節リウマチ(Rheumatoid ArthritisRA)のことであろう。病因は現在でも判然とはしていないが、概ね自己の免疫システムが誤認を起こし、主に手足の関節を侵すところの炎症性自己免疫疾患で、遺伝的素因も疑われる代表的な膠原病の一つである。しばしば血管・心臓・肺・皮膚・筋肉といった全身臓器にも障害が及ぶ(以上はウィキの「関節リウマチ」に拠る)。

「酢莖菜(スイバ)」田畑や道端によく見られるナデシコ亜綱タデ目タデ科スイバ属スイバ(酸葉)Rumex acetosa。「ギシギシ」や「スカンポ」「スッカンポ」(私は最後がしっくりくる。但し、これらは別種でやはり食用にするタデ科ソバカズラ属イタドリ(虎杖)Fallopia japonica の方言名としても用いられるので注意されたい)のこと。なお、同種は雌雄異株でX染色体とY染色体を持つことが大正一二(一九二三)年に発見・報告されている(木原均&小野知夫)が、これは種子植物に性染色体があることを初めて示した発見の一つであることは余り知られているとは思われないので特に記しておく。参考にしたウィキの「スイバ」によれば、『スイバの性決定はショウジョウバエなどと同じく、X染色体と常染色体の比によって決定され』る、とある。

「7勺」百二十六ミリリットル。]

 

○百日咳――梅干の種(核なり種を割りて出す)を7、8個 氷砂糖の大三個 水一合 水飴とす

[やぶちゃん注:「百日咳」主にグラム陰性桿菌のプロテオバクテリア門βプロテオバクテリア綱バークホルデリア目アルカリゲネス科ボルデテラ属百日咳菌(ボルデテラ・ペルツッシス)Bordetella pertussis 或いはパラ百日咳菌(ボルデテラ・パラペルツッシス)Bordetella parapertussis による急性気道感染症。潜伏期は一~二週間で、感冒様の症状を呈した後、特有な痙攣性の咳の発作を繰り返す時期が二~六週間続き、通常はその辺りから落ち着くが、その後でも時折、忘れた頃に発作性の咳が出、全経過約二~三ヶ月で回復する。但し、乳幼児では肺炎(二〇%)や脳症(〇・五%)を合併して危篤状態に陥ることもあるので注意が必要である。]

 

○疵藥――沃度丁幾

[やぶちゃん注:「疵藥」は「きずぐすり」。「沃度丁幾」は嘗て家庭用消毒剤として広く流布していた暗赤褐色の液体「ヨードチンキ」(ドイツ語:Jodtinkturの当て字。ヨウ素(ヨード)の殺菌作用を利用した殺菌薬・消毒薬。原液は劇薬であるが、消毒に用いられるものはヨウ素とヨウ化カリウムとをエタノールに溶かした二倍希釈の「希ヨードチンキ」である。]

 

〇群れ渡る海豚の聲や梅雨の海

 

《2-34》

○烏鷺交々落ちて餘寒の碁盤かな

[やぶちゃん注:「烏鷺」は「うろ」カラスとサギのことであるが、言わずもがな乍ら、ここはそれらの鳥の実景ではない。「烏鷺」には別に、黒い石と白い石を烏と鷺に見立てて「囲碁」を指す。]

 

 春日さす海の中にも世界かな

 冴え返る魚の背砂にまがひけり

 石稀に更けて餘寒の碁盤かな

 井目に餘寒の碁盤畫しけり

[やぶちゃん注:「井目」は「せいもく」で「聖目」「星目」などとも書き、囲碁で盤面に記された九つの黒い点を指す。或いは、囲碁で力量に大差がある場合、下手(したて)の者が予めその九点に石を置くことをも言う。この場合は下五から後者の感じである。]

 

 寺の春暮れて蘇鐡の若葉かな

 群れ渡る海豚の聲や大南風

 黑南風の沖啼き渡る海豚かな

 黑南風の沖群れ渡る海豚かな

 白南風の沖に群れ鳴く海豚かな

 笹原や笹の匀も日の盛

 黃昏るゝ榾に木の葉や榾焚けば

 

《2-35》

〇夏山や空はむら立つ嵐雲

 日は天に夏山の樹々熔けんとす

 雲荒れるゝ下に畠のキヤベツかな

[やぶちゃん注:「雲荒れるゝ」はママ。「雲荒るゝ」の誤記であろう。]

 

 まばら咲く桃や

 ぢりぢりと向日葵枯るる殘暑かな

 初虹や屋根の菖蒲の靑む頃

 夕立に鬼菱せめぐ水の面かな

 五月雨の川に何やら簀卷きかな

 秋の後架の窓に竹二本

 孟竹の一竿高し秋動く

 炎天や切れても動く蜥蜴の尾

 一鉤の月に一羽の雁落ちぬ

 夕立や銀杏ある城下口

[やぶちゃん注:「城下口」「じやうかぐち(じょうかぐち)」城の下の入口付近ではあろうが、「しろしたぐち」では張りを欠く。]

 搔けば何時も片目鰻や殘る月五月雨

[やぶちゃん注:鬼趣の句と読む。]

 

《2-36》

〇夏山や峯押し  嵐雲

 夏山の空荒れぬべきけはひかな

 夏山や嵐や來

 夏山の空や小暗き嵐雲

 夏山や空に怪しきは小暗き嵐雲

 日は天に夏山の樹々熔けぬべし

 溯る

 夏山の下行く路や

油照り夏山の樹々や熔けなん

 夏山の尾の上

 朝燒くる夏山松の

 夏山

 夏山や空はむら立つ嵐雲

Samuel Popy’s Diary

[やぶちゃん注:サミュエル・ピープス(Samuel Pepys 一六三三年~一七〇三年)は十七世紀に活躍したイギリスの官僚。ウィキの「サミュエル・ピープス」によれば、『王政復古の時流に乗り、一平民からイギリス海軍の最高実力者にまで出世した人物であり、国会議員及び王立協会の会長も務めた。一般には』一六六〇年から一六六九年にかけて『記した詳細な日記で知られているが、官僚としての業績も大きく、王政復古後の海軍再建に手腕を発揮したことにより「イギリス海軍の父」とも呼ばれている』とある、彼の日記である。この日記は『王政復古期の世相を描いた史料的価値があり』、一六六五年の『ペスト流行や』一六六六年の『ロンドン大火についても記述している。また、自己の女性関係(浮気)などを赤裸々に(と言っても都合の悪い部分は外国語や暗号を用いて)記述した「奇書」である。眼を痛めたため』、一六六九年を以って『日記の執筆はやめてしまった』とある。]

 

《2-36》

Crimson Emerald Green Prussian Blue Cobalt Blue

[やぶちゃん注:総て色名。「Crimson」は真紅、「Emerald Green」は鮮緑色、「Prussian Blue」は「紺青(こんじょう)」と呼ばれる顔料に由来する青色。紺青色とも呼ぶ。この「プルシアン・ブルー」とは「プロイセン(プロシア)風の青色」といった意味である。「Cobalt Blue」は顔料の「コバルト・ブルー」などが示すところの強く鮮やかな青。]

 

○太郎と次郎 ――と爺 ――と沙金 次郎と沙金――と阿濃 婆と爺 婆と沙金 沙金鴉に食はる

[やぶちゃん注:「偸盜」のメモであるが、同作は大正六(一九一七)年四月二十日脱稿であるから、どうも位置がおかしい(底本編者によれば、本「手帳2」の記載推定時期は大正七(一九一八)年か大正八(一九一九)年頃である)。]

 

《2-補》

[やぶちゃん注:岩波旧全集「手帳(二)」の末尾に存在するも、新全集が底本とした写真版手帳には見出されない句稿十一句(原資料は現存しない模様)。ここは岩波旧全集を底本とした。これを以って「手帳2」は終わる。]

 

○爪とらむその鋏かせ宵の春

 春風にふき倒されな雛仔ども

 島ぶりの簪は貝や春の風

[やぶちゃん注:「簪」老婆心乍ら、「かざし」と読んでいる。]

 

 脚立して刈りこむ黃楊や春の風

[やぶちゃん注:「黃楊」老婆心乍ら、「つげ」で、ツゲ目ツゲ科ツゲ属 Buxus microphylla 変種ツゲ Buxus microphylla var. japonica。]

 

 魚の眼を箸でつつくや冴返る

 二階から簪落して冴返る

 春寒くすり下したる山葵かな

 靑蛙おのれもペンキぬり立てか

 瓦色黃昏岩蓮華ところどころ

[やぶちゃん注:岩蓮華ユキノシタ目ベンケイソウ科センペルビヴム亜科テレフィウム連オロスタキス(イワレンゲ)属イワレンゲ Orostachys iwarenge。葉は多肉質でよく水分を貯蔵し、乾燥に強く、実際に岩の上でも生える。属名の Orostachys は、ギリシャ語の「oros」(山)+「stachys」(穂)で、高山に生える穂のような花序を持ったもの、の謂いである。]

 

 秋風や水干し足らぬ木棉糸

 松二本芒一むら曼珠沙華

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