芥川龍之介手帳 1―16
《1-16》
○下部發令所及下部發令所
[やぶちゃん注:以上の図は岩波新全集からトリミングした。思うにこれは砲塔或いは艦首位置から見上げた広義の艦橋、ブリッジ(bridge)方向を見て模式した図ではないかと考える。最上部右に、
「top」
とあり、羽状のマークを挟んでその左手に縦に「砲術長」とあるが、思うにこれは、次の、「Conning tower」の上部構造である狭義の指揮所である艦橋最上部を、「top」(top mast)と呼んでいるのではあるまいか? 中央やや上の右手には、
「Conning tower」
とあるが、これは線で指された左手の長方形部分(艦橋中段部)のことであろう。これは軍艦の司令塔の謂いで、広義の艦橋である。その直下に、左から右に左に等間隔で、
①②③④
の数字が打たれているが、この内、②と③に線が引かれ、中央下部に縦書で、
「測距儀アリ」
とある。これは長距離射撃の照準を決めるための単体で三角測量を行なう機器のことで、左右に長く飛び出た望遠レンズを中央部で覗いて、砲撃対象との距離を割り出すステレオ式測距儀のことと思われる(岩波新全集はこれを「測距機」と翻刻するが採らない)。中央左の「Conning tower」の下部には四角が書かれ、その中に二行で、
「下部發令所」
とあり、その右手には、
「号令官」
(但し「号令」の下には(てへん)を書いた後があり、その左手に「官」とある。書きかけたのは「指揮官」の「指」ではなかったかと感じさせる。ただ、軍艦の艦長である指揮官との混同を避けようとしたのかも知れない)。なお、柱の「下部發令所及下部發令所」はおかしく、艦橋の「上部發令所」(狭義の艦橋(ブリッジ)、指揮所のこと)及び「下部發令所」の誤記ではあるまいか?]
○巨離曲線盤
巨離時計 >發令所 ○2 or 3 →下發→ top →下令→2, 3, 1, 4 砲差訂正
range clock
[やぶちゃん注:かなり表記が異なるが、これは先の「測距儀」に次いで作り出された射撃指揮装置の一つである「変距率盤」(Range-Rate Table)及び「距離時計」(Range Clock)と呼ばれるものである。孰れも一九〇〇年頃に英海軍で発明されたものという。個人サイト「桜と錨の海軍砲術学校(日本海軍の艦砲射撃)」の「射撃指揮装置概説」で先の「測距儀」ともども画像が見られる。「測距儀」「変距率盤」「距離時計」が艦砲射撃の三種の神器なのである。
「發令所 ○2 or 3 →下發→ top →下令→2, 3, 1, 4 砲差訂正」というのは、艦砲射撃の際の伝達システムを示したものであろう。まず、艦橋下部にある発令所が先の測距儀のある②又は③に敵艦船頭の測量を命じ、それが発令所に報告されると、艦橋のトップ・マストの砲術長(ホンマにこないなところに居るんかどうか知らんが)に確認が行き、その確認がブリッジに行き、ブリッジは①②③④の観測点総てで再び測量をやり直させた上、砲の角度と向きを補正し、砲撃命令を下す、ということであろうか。]
○===部 旋𢌞
[やぶちゃん注:「○===部 旋𢌞」の「===」は底本では繫がった二重線で、要は砲塔部が旋回するということを意味している絵文字のようなものと判断出来る。これ自体は上記画像の上部に左から右に書かれているらしい。以上の砲塔(「金剛」は射界の狭い船体中央の砲塔を廃し、主砲塔を前後二基ずつ十四インチ砲八門(十四インチは三十五・五六センチメートル)を配置したすこぶる画期的な軍艦で、これは実は世界最大の艦砲であった)図は岩波新全集からトリミングした。上から、砲塔の内部に、
「砲室」
その塔の一階部分に、
「換装室」
とある。この換装室(working chamber)は装填前の砲弾が下部から引き上げられてあって、同室内には次に打ち出す砲弾のための弾薬などが先に引きあげられて保管されていたようである。
その右手上(砲塔外)に換装室の形状を示す、
「円」
というキャプションと、換装室についてのキャプションが書かれているのであるが、これが、
「丸の下■■■
■■■■■■
砲室■■■」
と判読出来ない。換装室の下には、
「防衝器室」とある。砲撃の際の反動と爆音とを緩衝するための部屋であろう。これにも形状を示す、
「円」
というキャプションが右手にある。その更に右手には、
「電氣」
とあって、それが防衝器室へ矢印で繋がっているが、あまり意味が分からない。その左にはさらに、砲塔中央の船底方向への竪孔の中央部のパイプ状のものに線を伸ばして、
「空氣→水壓は軸心にある」
というキャプションが書かれてある。これもよく意味が分からない。或いは砲撃の反動や爆音を緩衝するために空気ポンプと海水ポンプの二つが利用されていたということか? 軍艦に詳しい方の御教授を乞うものである。
最下部左下にも、
「■■■以上メモ」
という書き込みがある。判読不能の三文字は「樓直下」(砲塔直下の透視図の謂い)と読めなくもないように思われる。]
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