芥川龍之介 手帳2―16
《2-16》
○芥川と龍之介と分れる夢 馬上龍之介を落とす
[やぶちゃん注:これ! 読んでみたかった!!!]
○舌だけ活きてゐる話――夢 テーマ未考
[やぶちゃん注:これは例えば、私も偏愛するもので、「日本靈異(りやうい)記」の「法華經を億持(おくぢ)する者の舌、曝(さ)りたる髑髏(ひとかしら)の中に著(つ)きて、朽ちずありし緣(えん)第一」や「今昔物語集」の「卷十三」に出る「一叡持經者聞屍骸讀誦音語第十一」などに出る髑髏(しゃれこうべ)に肉身の舌が残って経を唱えるというとびっきりの怪異譚の一つである。読み易さと分かり易さから「今昔物語集」のそれを示す(小学館の「日本古典全集 今昔物語集一」を参考にしつつも、表記を変え、恣意的に漢字その他を正字化、送り仮名も追加してある、私のオリジナルなものであるので注意されたい)。
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一叡(いちえい)持經者(ぢきやうじや)屍骸(しにかばね)の讀誦の音(こゑ)を聞く語(こと)第十一
今は昔、一叡と云ふ持經者、有りけり。幼(えう)の時より法華經を受け持(たもち)て、日夜に讀誦して年久しく成りにけり。
而る間、一叡、志を運びて、熊野に詣でけるに、宍(しし)の背山(せやま)と云ふ所に宿りしぬ。夜に至りて法華經を讀誦する音(こゑ)、髣(ほのか)に聞ゆ。其の音(こゑ)、貴(たふと)き事、限り無し。
「若し、人の亦、宿りせるか。」
と思ひて、終夜(よもすがら)此れを聞く。暁に至りて一部を誦(じゆ)し畢(をは)りつ。曙(あけ)て後(のち)、其の辺(ほとり)を見るに、宿りせる人、無し。只、死骸(しにかばね)のみ有り。近く寄りて此れを見れば、骨、皆、烈(つらな)りて離れず。骸(しにかばね)の上に苔、生(お)ひて、多く年を積みたりと見ゆ。髑髏(ひとがしら)を見れば、口の中に舌、有り。其の舌、鮮かにして、生きたる人の舌の如し。一叡、此れを見るに、
「奇異也。」
と思ひて、
「然(さ)は、夜る經を讀み奉つるは、此の骸(しにかばね)にこそ有りけれ。何(いか)なる人の、此こにして死にて、此くの如く誦(じゆ)すらむ」と思ふに、哀れに貴くて、泣く泣く禮拜(らいはい)して、此の經を音(こゑ)を尚、聞かむが爲に、□日(か)其の所に留まりぬ。其の夜、亦、聞くに、前の如くに誦す。
夜、曙(あ)けて後(のち)、一叡、屍骸(しにかばね)の許(もと)に寄りて禮拜して云く、
「屍骸(しにかばね)也と云へども、既に法華經を誦し給ふ。豈(あ)に其の心、無からむや。我れ、其の本緣(ことのもと)を聞かむと思ふ。必ず、此の事を示し給へ。」
と祈り請ひて、其の夜、亦、此の事を聞かむが爲に留まりぬ。其の夜の夢に、僧、有りて、示して云く、
「我れは是れ、天台山の東塔(とうたふ)の住僧也。名をば円善(ゑんぜん)と云ひき。佛道を修行せし間(あひだ)に、此の所に來て、不慮(おもは)ざる外(ほか)に死にき。生きたりし程に、六万部の法華經を読誦せむと云ふ願(ぐわん)、有りき。其れに、半分をば讀誦し畢はりて、今半分をば、讀誦せずして死たり。然かれば、其れを誦し滿(み)てむが爲に、此の所に住(ぢう)せり。既に誦し滿てむとす。殘り幾(いくばく)に非ず。今年許(ばか)り、此(ここ)に可住(ぢうすべ)き也。其の後には、兜率天(とそつてん)の内院(ないゐん)に生(むま)れて、慈氏尊(じしそん)を見奉らむとす。」
と云ふと見て、夢、覺めぬ。
其の後(のち)、一叡、屍骸(しにかばね)を禮拜(らいはい)して、所を立て、熊野に詣でぬ。復た年、其の所に行きて、屍骸(しにかばね)を尋ね見るに、更に無し。亦、夜る留まりて聞くと云へども、其の音(こゑ)、不聞(きこえ)ず。一叡、此れを思ふに、『夢の告(つげ)の如くに、兜率天に生れにけり。』と知りて、泣く泣く其の跡を禮拜(らいはい)して返りにけり。
其の後(のち)、世に廣く語り傳ふるを、聞き繼ぎて語り傳へたるとや。
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○李太白酒をもらひ一生涯の 1 Moment をやる話
[やぶちゃん注:これも! 「超いいね!」]
○夫――妻――姦夫 弟が話す my jealousy perhaps?
[やぶちゃん注:「my jealousy perhaps?」の「恐らくは私の嫉妬?」とは実は或いは芥川龍之介自身の秘やかな告解記載かも知れない。無論、龍之介は「姦夫」である。龍之介の大正八(一九一九)年当時の不倫相手であった秀しげ子には夫がいた。]
○夫 夫 夫
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妻 姦夫 妻
○姊
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