芥川龍之介手帳 1―17
《1-17》
{縱舵
○魚雷{橫舵
{斜進舵
[やぶちゃん注:「{」底本では三行に亙る一つの大きな「{」。魚雷攻撃を受けた際の回避行動の一覧。]
○1出帥準備 軍港其他
2臨戰準備 軍艦
a戰時不用品ノ除去
b彈藥必需品の搭載(一年 or 半年) (Casematesなるものは(二等Cruisers)Splinter Net等をつくる)
3合戰準備(handrail, そのstantion, Boat david等をとり去る。又船窓をしめ ventilater, 交通のvalve皆ふさぐ。衛生部前後部に戦時治療所をひらく。engine の方にも半時間内に全力準備成る
[やぶちゃん注:「出帥」はどうも怪しい言葉だ。「出師」ならば「すいし」で、確かに軍隊を繰り出すこと、出兵、軍隊又は国家の人的・物的資源を平時態勢から戦時態勢に或いは戦時の態勢からさらに厳しい臨戦態勢に移すことを指し、旧日本軍では陸軍はこれを「軍動員」と「軍需動員」に分け、海軍では「出師(すいし)準備」と称した。しかし「帥」の音は「シ」とは読まず、逆に「スイ」と読むのが普通だ。だから「出帥」は「しゅっすい」は「すいすい」と読むことになる。「帥」の音は「スイ」(呉音・漢音)の他に「ソツ」(漢音)・「ソチ」(呉音)はあっても「シ」はないのである。しかも「帥」は「軍を率いる最高の官」「先頭に立って指揮すること」、慣用音で「ソツ」と読んで「率いる」の謂いではある。どうもここには、とんでもない誤認慣用音が潜んでいる気がする。
「Casemates」これは軍事用語と思われ、「砲郭・砲塔」「耐爆掩蔽設備」「防護砲台(艦上の砲塔を防護するために装甲された砲室)」のことを言うようである。
「Cruisers」巡洋艦。
「Splinter Net」これも軍事用語で「掩蓋(えんがい)」と呼ばれる、敵の攻撃の弾丸片やそれによって損壊した建造物の破片から自軍の武器や構造物を守るための「覆(おお)い」、防御ネットのことである。
「handrail」欄干。
「stantion」station の語記か。であれば、前記の欄干の固定指示部(装置)と読める。
「Boat david」不詳。ボートの昇降機(dumbwaiter)のことか?
「ventilater」ventilator(ベンチレーター:通風装置・通風機・送風機・通風孔・換気窓)の語記か?
「valve」バルブ(弁)であるが、ここは通路の各部の遮断扉(火災や浸水時に閉鎖)のことか?]
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