フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 僕の愛する「にゃん」
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« なつかしき昔の教科書   梅崎春生 | トップページ | 宗祇諸國物語 附やぶちゃん注   金剛山の古跡 »

2016/07/24

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蠋

Hakuimusi

はくひむし 蠋

【音】 【波久比無之】

      芋蟲

      【以毛無之】

 

本綱蠋似蠶而在樹上食葉者

按是亦有數品在柚柑之類者似蠶而黒黃班色小者

 二三分大者寸許形不甚肥着葉裏竊囓切其葉後羽

 化成蝶又有正青而肥大者觸物則出角兩角微小皆

 有柚柑椒之氣甚臭也其青而有白輪紋者羽化爲鳳

 蝶【凡蝶遺卵於柚柑葉孚爲蠋蠋復裂爲蝶出飛去也卵生化生輪𢌞蠋好葉蝶好花】

 

[やぶちゃん注:ここに縦罫。]

 

芋蟲 囓芋葉俗呼爲芋蟲正青色肥大或有黒者有青

 黃班者有背淺黃腹白者共無角有硬刺反曲如鉤胸

 六手對生小而似爪腹以下八脚對生小而圓如肬

 

 

はくひむし 蠋〔(しよく)〕

【音、】 【波久比無之。】

      芋蟲

      【以毛無之〔(いもむし)〕】

 

「本綱」、蠋は蠶に似て、樹上に在り、葉を食ふ者なり。

按ずるに、是れにも亦、數品、有り。柚〔(ゆず)〕・柑〔(みかん)〕の類に在る者は蠶に似て、黒黃の班〔(まだら)〕色にて、小なる者、二、三分、大なる者、寸許り。形、甚だ〔しくは〕肥えず、葉の裏に着〔つ〕きて竊〔(ひそ)か〕に其の葉を囓〔(かじ)り〕切〔る〕。後〔の〕ち、羽化して蝶と成る。又、正青にして肥大なる者、有り、物に觸るれば、則ち、角を出だす。兩角、微小なり。皆、柚・柑・椒〔(さんせう)〕の氣(かざ)有り、甚だ臭し。其の青にて、白き輪の紋、有る者は、羽化して鳳蝶(あげはの〔てふ〕)と爲る【凡そ蝶、卵をして柚・柑〔の〕葉に遺し、孚〔(かへ)〕りて蠋と爲り、蠋、復た裂けて蝶と爲り、出〔でて〕飛び去るなり。卵生・化生、輪𢌞〔(りんね)〕して、蠋は葉を好み、蝶は花を好む。】

 

[やぶちゃん注:ここに縦罫。]

 

芋蟲 芋の葉を囓る。俗に呼びて「芋蟲」と爲す。正青色。肥大。或いは黒き者、有り、青黃〔の〕班〔(まだら)〕の者、有り。背〔の〕淺黃〔にして〕腹〔の〕白き者、有り。共に、角、無し。硬(かた)き刺(はり)有〔りて〕反(そ)り曲(まが)りて鉤(つりばり)のごとく、胸に六手、對生〔(たいせい)〕し、小にして爪(つめ)に似たり。腹より以下、八つの脚、對生す。小にして圓く、肬〔(いぼ)〕のごとし。

 

[やぶちゃん注:まずは(後の「芋蟲」の記載は別)蛾や蝶類を含む、鱗翅目 Lepidoptera の幼虫のうちで、通常、「青虫(あおむし)」と呼称しているところの、長い毛で体を覆われておらず、緑色のものを指している。その食性から「はくひむし」、葉食い虫という俗称で呼ぶ。

 

・「二、三分」六ミリ強から九ミリ強。

・「寸許り」約三センチメートル。

・「正青にして肥大なる者、有り、物に觸るれば、則ち、角を出だす」この角は臭角(しゅうかく)と呼ばれるものであるが、これを持っている(背面の頭部と胸部の間に一対)のは鱗翅目アゲハチョウ上科アゲハチョウ科 Papilionidae のアゲハチョウ類のチョウの幼虫に限る。オレンジ色でかなり目立ち、同時に濃縮した柑橘異臭を放つ。一般的記載ではこれは摂餌対象である柑橘類が持つテルペノイド(Terpenoid:五炭素化合物であるイソプレン・ユニットを構成単位とする天然物化合物)とあるが、一部の種では、臭み成分にアリストロキア酸を多量に含むとある(「アリストロキア」は、当該化学物質を豊富に持ち、アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科キシタアゲハ族ジャコウアゲハ属ジャコウアゲハ Byasa alcinousやアゲハチョウ科ウスバアゲハ亜科タイスアゲハ族ホソオチョウ属ホソオチョウSericinus japonicaなどの幼虫の食草であるコショウ目ウマノスズクサ科 Aristolochioideae亜科ウマノスズクサ属ウマノスズクサ Aristolochia debilis の学名に由来する)。食草から得たアリストロキア酸を体内に貯め込む「選択蓄積」を行い、それを防禦物質として使用しているのである。因みに調べて見ると、アリストロキア酸には腎毒性があり、発癌性も疑われている。また、その角の非常に目立つ色と形状からは、これを捕食しようとする者への警戒色としてもいることが判る。

・「凡そ蝶、卵をして柚・柑〔の〕葉に遺し、孚〔(かへ)〕りて蠋と爲り、蠋、復た裂けて蝶と爲り、出〔でて〕飛び去るなり。卵生・化生、輪𢌞して、蠋は葉を好み、蝶は花を好む」この箇所を虚心に読んでみると、この「化生」というのは、現在の狭義の「蛹化」や「羽化」の「化」と一種、通じた雰囲気があり、良安が必ずしも、仏教の四生の影響を強く受けた中国本草に於ける「化生」(けしょう:仏教では自分の超自然的な力によって忽然と生ずること。天人や物怪の誕生、死者が地獄に生まれ変わることなどを指す)に縛られている訳ではなく、仏教用語「輪𢌞」を用いてはいるものの、構造的には同一の生命体のライフ・サイクルとしての近代生物学的な認識の萌芽見られるという気が強くしてきた。

・「芋蟲」以前にも引いたが、まずウィキの「イモムシ」を再掲しておきたい(下線はやぶちゃん)。『イモムシは、芋虫の意で、元来はサトイモの葉につくセスジスズメ』(鱗翅(チョウ)目スズメガ上科スズメガ科ホウジャク亜科コスズメ属セスジスズメ Theretra oldenlandiae)『やキイロスズメ』(スズメガ科コスズメ属キイロスズメ Theretra nessus)、『サツマイモの葉につくエビガラスズメ』(スズメガ科スズメガ亜科 Agrius エビガラスズメ Agrius convolvuli)『などの芋類の葉を食べるスズメガ科』(Sphingidae)『の幼虫を指す言葉である。決してイモのような風貌なのでイモムシなのではない。伝統的な日本人の食生活においてサトイモやサツマイモは穀物に次ぐ重要な主食作物であった。そのため、これらの葉を食害する巨大なスズメガ科の幼虫は、農村で農耕に携わる日本人にとって非常に印象深い昆虫であった。そのため、イモムシが毛の目立たないチョウやガの幼虫の代名詞として定着するに至ったと考えられる。よく名前の知られたイモムシには、ヨトウガ類』(鱗翅目ヤガ科ヨトウガ亜科 Hadeninae 或いはヨトウガ属 Mamestra の仲間)『の幼虫であるヨトウムシ』(夜盗虫:夜行性に由来)、『イチモンジセセリ』(鱗翅目セセリチョウ上科セセリチョウ科イチモンジセセリ属イチモンジセセリ(一文字挵:「せせる」は物をあちこち突っつきまわす意、「一文字」は後翅の裏の銀紋が一文字状に並んでいことに由来)Parnara guttata)はチョウ目(鱗翅目)セセリチョウ科に属するチョウの一種。特徴として後翅裏の銀紋が一文字状に並んでいるためこの名前がある。Parnara guttata)『等の幼虫でイネの害虫であるツトムシ、モンシロチョウ』(鱗翅目アゲハチョウ上科シロチョウ科シロチョウ亜科シロチョウ族モンシロチョウ属モンシロチョウPieris rapae)『の幼虫でキャベツ等を食害するアオムシ、シャクガ科』(鱗翅目シャクガ(尺蛾)科 Geometridae:幼虫の尺取虫に由来)『に属するガの幼虫のシャクトリムシ等がある』(尺取虫は既出であるが、次で独立項として出る)。またアゲハチョウ上科アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科アゲハチョウ族アゲハチョウ属キアゲハ Papilio machaon のように、アゲハチョウ類でありながら「青虫」にならない(キアゲハの幼虫は三齢まではアゲハチョウ属 Papilio xuthus(実は彼らも青くなる五齢以前は「青虫」ではない)ナミアゲハと同様に鳥の糞に似せた保護色をしているが、四齢幼虫では白地に黄色と黒の斑点模様の警戒色となる。五齢幼虫ではさらに黄緑と黒のしま模様に変化し、黒いしまの部分には橙色の斑点がある)も立派な「芋虫」であるということになる。

・「硬(かた)き刺(はり)有〔りて〕反(そ)り曲(まが)りて鉤(つりばり)のごとく、胸に六手、對生〔(たいせい)〕し、小にして爪(つめ)に似たり。腹より以下、八つの脚、對生す。小にして圓く、肬〔(いぼ)〕のごとし」この「硬(かた)き刺(はり)」は棘や毛のことではない。「反(そ)り曲(まが)りて鉤(つりばり)の」ようだというのであるから、これは鱗翅目スズメガ科(ウチスズメ亜科 Smerinthinae・スズメガ亜科 Sphinginaeホウジャク亜科 Macroglossinae の三亜科から成る)の多くの幼虫の特異的特徴である、腹部末端の「尾角(びかく)」と呼称する尾状突起を描写したもののように私には思われる。実際、英語圏ではスズメガの幼虫を“horned worm”(角の生えた芋虫)と称しており、参照したウィキの「スズメガによると、『尾角の形状・色は種類によって異なるが、その用途は良く分かっていない』ともある。なお、この角には毒は、ない。]

« なつかしき昔の教科書   梅崎春生 | トップページ | 宗祇諸國物語 附やぶちゃん注   金剛山の古跡 »