出家夢
私は出家するために、とある御堂に居る。
他に二人の若い女性が同じ目的で私と並んでいる。
この宗派には在家・仮修学・出家遁世の三種がある。
二人の女性は先に立って、在家と仮修学の御堂内のそれぞれの厨子の前に坐った。
そこしか空いていなかったからではなく、私は始めからそうするつもりで出家遁世の厨子の前に坐る。厨子の中には黒い小さな如来像[やぶちゃん注:種字不詳。]が鎮座している。
そこで眼を瞑った。
するとその厨子の中の如来像が脳内に直截、意を伝えて来る。
――私の教えはあなたの機に基づいてあなたがそう感じた時に私へそれを告げることで成就される――
眼を開くと、私は怖ろしく巨大な樹の頂点に坐している。
下界は雲霞に覆われていて緑も人屋も見下ろせぬ。
この巨木も緑の葉もなく、白っぽいつやつやした樹皮が剝けた木肌を露わにしたものである。
そして――面前にはさっきの厨子の中の小さな如来像が後光を放って空中に浮いているのである。
『私は既にして悟ったのであろうか?』
と思うた瞬間
――かなかなかなかな…………
と蜩が鳴いた。そうして
――月、日(ひ)、星、ほいほいほい! 月、日、星、ほいほいほい! 月日星、ほいほいほい!
と目の覚めるような大きな通る声で三光鳥が、三度、啼いた…………
*
…………と、思うたら、目が醒めていた。そうして実際に、開いた枕上の窓の外の森の奥で、蜩が
「かなかなかなかな」
と遠く鳴いており、直ぐ近くの梢では三光鳥が
「目覚めよ!」
と促すように驚くべき大きな声で、
「月、日(ひ)、星、ほいほいほい! 月、日、星、ほいほいほい! 月日星、ほいほいほい!」
と――三度、高く、啼いた。
4時20分であった。
私の家の裏山には二年程前からスズメ目カササギヒタキ科サンコウチョウ属サンコウチョウTerpsiphone atrocaudata が初夏になると渡って来るようになった(残念なことに姿は未だ一度として見たことがないのであるが)。
その泣き声は確かに不思議に何か妖しい見知らぬ教えの呪文のような魅力を持っているのである…………