強情な楽天家 ――妻を語る―― 梅崎春生
強情な楽天家
――妻を語る――
昭和二十二年春に結婚して、もうほぼ十年になる。結婚当時はひどい貧乏で、その後もいろいろ苦労したし、糟糠(そうこう)の妻といえるだろう。
苦労した割には、彼女は老けていない。もともとあまりくよくよしない性質で、苦しくてもねを上げない。どちらかというと、楽天的な性格だ。
といっても、強情な面がないでもない。結婚以来、彼女が私に頭を下げてあやまったことは一度もない。なんか失敗しても、自分の非を間接的には認めるが、頭を下げてあやまることを絶対にしないのである。その点ちょっとNHKに似ている。
なかなか器用なたちで、絵も描くし、詩や俳句もつくるし、料理もうまいし。
その他いろいろと声を大にして語りたいこともあるが、あとは被写体に譲るとします。
[やぶちゃん注:昭和三一(一九五六)年三月『週刊朝日』初出(書誌は以下の底本解題に拠る)。底本は沖積舎「梅崎春生全集 第七巻」に拠った。]