人口が半減すれば 梅崎春生
この狭い国土に、四つの小さい島に、一億近くの人間がひしめいている。いくらなんでも一億とは多過ぎる。せめてこれが半分の五千万なら、風通しもよくなるし、各自の所得もふえて、暮しよくなるだろう。とある人に語ったら、その人がいった。
「暮しよくなるかねえ。たとえば君の場合で考えてみよう。人口が半分になれば、雑誌の発行部数も半分になる。五十万の雑誌は二十五万に、十万のは五万となる。すると原価計算の関係で、君の稿料もそれに応じて減らされる。それから単行本を出すとして、君の本がいま一万出ているとすれば、当然それは五千部しか出ないことになり、したがって印税収入も半分になる。人口が半分になれば、映画産業も縮小される。縮小されれば、まっさきに買いたたかれるのは原作料だ。あらゆる点において、君の収入は減って、大体いまの半分以下になってしまう。
いま君は飲むや飲まず(お酒)の生活をしているそうだが、人口が半分になれば、親子四人、本当に食うや食わずの生活に追い込まれてしまうよ。
それでいいかね?」
それは困る。食うや食わずの生活はしたくない。
したくないけれども、この狭い国土に一億人とは、どう考えてみても、多過ぎるような気がする。
[やぶちゃん注:本篇は昭和三三(一九五八)年六月十三日附『毎日新聞』掲載。底本は沖積舎「梅崎春生全集 第七巻」に拠った。なお、この昭和三十三年当時の日本の総人口は九千百七十六万七千人、内、男性は四千五百七万八千人、女性は四千六百六十八万九千人であった。]