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2016/09/27

甲子夜話卷之二 18 有德廟御馬渡(ワタリ)のこと幷三勇の事

2-18 有德廟御馬渡(ワタリ)のこと三勇の事

德廟の時、仙臺より獻ぜし御馬、思召に叶ひて御召に備へられ名を渡(ワタリ)と付玉ひ、その丈け八寸ぞ有ける。或日御馬場に率せ、これに乘らせ給ひ、十匁の御筒を馬上にて打試らるゝに、馬驚て御落馬なり。即復めし、同じ筒を取らせられければ、諏訪部文右衞門つと御馬の向に𢌞り、兩手を以て御馬のもろ轡を執るや否、德廟かの渡のさん頭(ツ)より復一丸打出さる。此時は渡少も驚かず。諏訪部も決心して御轡を執りおおせたり。時竊に評して三勇と申けるとぞ。

■やぶちゃんの呟き

「有德廟」吉宗。

「八寸」「やき」と読む。馬の蹄から背部までの高さをさす。馬の丈は四尺を標準とし、それ以上は寸だけで数えた。四尺八寸。一メートル四十五センチ。通用語としては「大きく逞しい馬」をも指す。

「率せ」「ひかせ」。

「十匁の御筒」この「匁」(もんめ)は火繩銃の特定の口径を指す総称表現で、概ね、口径十八ミリ十九ミリほどの口径の大きなものを「十匁筒(じゅうもんめづつ)」と称した。重厚で出来のいい物が多いが、音も反動もかなりあったものと想像される。

「打試らるゝに」「うちためさらるるに」。

「即復めし」「すなはち、また、召し」。再度、「ワタリ」を連れてこさせなさって。

「諏訪部文右衞門」御馬方であった諏訪部文右衛門定軌(さだのり 貞享四(一六八七)年~寛延三(一七五〇)年)であろう。以上は「新訂寛政重修諸家譜」の記載に拠った。

「もろ轡」「諸くつわ」。恐らくは「ワタリ」の真正面に立ちはだかって、口に嚙ませた轡を左右からグイと摑んで「ワタリ」の目を凝視したものであろう。

「さん頭(ツ)」「さんづ」で、馬の尻の方の背骨の盛り上がって高くなっている部位を指す語。「三途」「三圖」とも書く。

「時竊」暫く「じせつ」と音読みしておく。時の人々は密かに。

「三勇」これはこの折りの将軍吉宗公と諏訪部と「ワタリ」を指すのであろう。「竊」でああったのは将軍と並べることが憚られたせいであろう。

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