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2016/09/16

大きな共感の下で   梅崎春生


 昨年の始めごろ、ある新聞の文芸欄で、もう戦争小説もいい加減に切りあげて現在の生活を書いたらどうだ、と言ったような某作家の時評を読んだことがある。それを読んだとき、その言い方に私は反撥と不満を感じた。その感じは今もつづいている。戦争というものを、たとえばロングスカートやアロハシャツと同じ風に、過ぎてゆく風俗として眺める傾向が、その文章の中にはあった。私が反撥を感じた理由のひとつはそこにあった。この作家は私より一廻り年長であり、戦争中はいくぶん便乗的な文章も書いたことのある作家である。戦争をそう感じていたからこそ、さして抵抗もなく便乗できたのかも知れない。そう私は考え、その作家との隔りをつよく感じた。
 戦場や軍隊に取材した小説は、もっともっと書かれていいだろうし、書かれねばならぬ面も残っているだろう。と今私は思う。すべての人が、苦しみながら通り抜け、それぞれの振幅で揺れうごいた一時期を、振り返り、究明することなしに、今の私たちの生きてゆく地盤はあり得ないだろう。それぞれの体験から、それぞれの実感から、それぞれの視野から、それぞれの小説がもっと沢山つくられていい。
 そして私が今強く思うのは、そこに性急な規定があってはならぬことである。私たちの実感や視野は、大きなところでひとつに結び合っているのだから、そこの区々を性急に規定し、神経質な排他に陥ってはならぬ。それは文学を豊富にする方法ではない。文学を貧しくし、不毛にさせるものは、常にこのようなセクショナリズムである。一緒に結び合うべきものが、そんな泥試合をくりかえしているうちに、当面の大きな敵に漁夫の利を占められた例は、ふり返ればいくつも見出されるだろう。批評や批判というものは、大きなところで結び合うための支えとなるべきもので、偏狭な規定によって傷つけ合うものではないだろう。ことにそれは現在の瞬間に必要だ。大きな共感のもとに、すべて動かねば、元も子も失うおそれがあるだろう。
[やぶちゃん注:昭和二四(一九四九)年三月号『新日本文学』初出。底本は沖積舎「梅崎春生全集 第七巻」に拠った。底本では冒頭の「昨年」の後にポイント落ちで『(昭和二十三年)』という割注が入るが、これは底本全集編者による挿入と断じて、除去した。
「昨年(昭和二十三年)の始めごろ、ある新聞の文芸欄で、もう戦争小説もいい加減に切りあげて現在の生活を書いたらどうだ、と言ったような某作家の時評を読んだことがある」この某作家を明らかにしたい。識者の御教授を是非、乞う。
「セクショナリズム」“sectionalism”。派閥主義・セクト主義・縄張り主義・縦割り主義。小・中集団が集団内で共有するところの偏見。]

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