蜂の夢
今曉の第一の夢――
「すがる」を放つ夢を見た……右手で軽く摘まんだ「すがる」をぱっと空に放つのだ…………
……タルコフスキイの「鏡」の射撃場の後の、ブリューゲル風の遠景のある、冬の木立と小鳥と少年のようだった……映像もあのシークエンスのようにハイ・スピード撮影である……僕はやはりあの「少年」のようである……それを「僕」が、あのシークエンスのカメラと同じような位置から見ているのである…………
[やぶちゃん注:「すがる」とは「須軽・酢軽・為軽・蜾蠃・蜂腰」或いは単に「蜂」などと書く、万葉以来の「似我蜂(じがばち:膜翅(ハチ)目細腰(ハチ)亜目アナバチ科ジガバチ亜科ジガバチ族 Ammophilini)の古名。或いは広義の蜂(膜翅(ハチ)目 Hymenopteraを総称する古称でもある。「似我蜂」の由来その他はよろしければ私の「和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 蠮螉」の注を参照されたい。]
第二の夢――
裏山の道にポリ袋の塵芥が山と積まれている。そこを通るとスズメバチの集団が「スター・ウォーズ」か「アバター」の軍用機のように、その上でゴマンとホバリングしている。そこを通らないと僕は家に帰れない。
『――僕は出掛けなければならない。――旅立ちが遅れてるんだ。――もう「その」時刻は過ぎてしまったんだ。……』
と焦る。
しかしスズメバチに刺されるのは怖い。
僕は右手のなだらかに広がる麦畑の方へ逸(そ)れて、麦の穂の間にしゃがんで身を潜める。
風と麦の香りがする。
結局、最後まで僕はスズメバチには刺されない。しかし同時に遂に「旅立ち」はやって来ないのであった…………
[やぶちゃん注:僕は小学校二年の夏、カブトムシを捕りに行ってアシナガバチ(細腰亜目スズメバチ上科スズメバチ科アシナガバチ亜科アシナガバチ族アシナガバチ属 Polistes の恐らくはフタモンアシナガバチ(二紋脚長蜂)Polistes chinensis)に太腿を刺されて大泣きしたことはあるが、スズメバチ科スズメバチ亜科 Vespinaeのスズメバチ類に刺されたことは幸いにして、ない。但し、最強のスズメバチ属オオスズメバチ Vespa mandarinia に危うく刺されかけたことは、ある。昔、自宅の庭樹にハンドボール大の巣を作られ、竹の棒の先に灯油を含ませた布を巻いて焼き払った際、右眼を狙われた。しかし、眼鏡のガラス面に毒液が噴射されただけで命拾いした。因みに、その毒液のために見事にガラスのコーティングが溶けた。]
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