親と子 尾形龜之助 (附 初出復元)
親と子
太鼓は空をゴム鞠にする
でんでん と太鼓の音が路からあふれてきて眠つてゐた子をおこしてしまつた
飴賣は
「今日はよい天氣」とふれてゐる
私は
「あの飴はにがい」と子供におしへた
太鼓をたゝかれて
私は立つてゐられないほど心がはずむのであつたが
眼をさました子供が可哀いさうなので一緒に緣側に出て列らんだ
菊の枯れた庭に二月の空が光る
子供は私の袖につかまつてゐる
[やぶちゃん注:初出の昭和二(一九五七)年四月発行の『文藝俱樂部』では、以下の通り。
*
親と子
太鼓は空をゴム鞠にする
でんでん と太鼓の音が路からあふれてくる
空氣がはじけて
眠つてゐる子供を起こしてしまつた
飴賣りは
「今日はよい天氣」とふれてゐる
私は
「あの飴はにがい」と子供におしへた
太鼓をたたかれて
私は立ツてゐられないほど心がはずむのであつたが
眼をさました子供が可愛さうなので
一緒に緣側に出て列らんだ
二月の空が光る
子供の心が光る
梅の花の匂ひがする
私は遠のいた太鼓から離れて
菊の枯れた庭に晝の陽影を見た
子供は私の袖につかまつてゐた
*
初出の作為的で凡庸なシンボライズや生温い浪漫感覚が払拭されて、二月の清冽な空気が肌に実感として感じられる。優れた截ち入れである。]

