文楽人形になる夢――
30日の未明に見た夢――どうも不可思議で記さずにはおけぬ夢――
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僕は大阪の文楽劇場の楽屋に入ってゆく――
僕はそこで――文楽の女形のかしら「むすめ」の人形――になる――ことになっている――のである
僕は鏡に向かって独りで――顔に白い胡粉を刷(は)き――娘の髷を被り――娘の衣裳を纏う……
僕の上半身はすっかり「むすめ」の人形になっていた――
ところが、そこで僕は尿意を催してしまう。文楽の女形には下半身はないのだが、僕の下半身はまだ人間なのである。見下ろしてみると、僕はタイトなGパンを穿いている。
[やぶちゃん注:僕は実はGパンが好きでない。高校時代に穿いていたことはあるが、記憶の中では二十代以降、現在に至るまでGパンを穿いたことがなく、持ってもいないのである。]。
僕はこれを脱ぐ。そうして上半身は「むすめ」人形のままでトイレに行こうとすると、楽屋にいる太夫や人形遣たちが、
「あかん。人形になったら、もう、御不浄へは行けんのや。……そやな……裏の坪庭の垣根の辺りで……しなはれ……」
と言うのである。「むすめ」人形上半身の下半身パンツ一丁の僕は、おしっこを我慢して、ひた走りに楽屋の奥に向かって走るのであった…………
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そこで実際の尿意を催して目覚めた。午前三時であった。その時、僕は
「僕を遣う面遣(おもづかい)は是非、蓑助さんで、あってほしい。」
と訳の分からぬ感想を感じていた…………