甲子夜話卷之三 3 岡部氏の先代、鷄を好し事
3-3 岡部氏の先代、鷄を好し事
岸和田の岡部氏、今の三四代も前の主、殊の外鷄を好て、數百番畜養せり。その内より翎毛の常と替りしも往々出しとぞ。世に玩ぶ淺黃矮鷄と云て、黲素色なるものは、其家より新に生ぜし種子にて、別に一種を成し、今はいづ方にもあるやうになりたるなり。
■やぶちゃんの呟き
「岡部氏」「岸和田の岡部氏、今の三四代も前の主」現在の大阪府岸和田市、和泉国南郡岸和田周辺を領有した岸和田藩の藩主「岡部氏」(小出家から松平(松井)家を経て岡部家が入封)。静山存命の頃は第九代藩主岡部長慎(ながちか)であるから、「今の三四代も前」となると第五代藩主岡部長著(ながあきら)或いは第六代藩主長住(ながすみ)か。
「番」「つがひ」。
「翎毛」底本では二字で「はね」と訓じている。
「玩ぶ」「もてあそぶ」。
「淺黃矮鷄」「あさぎちやぼ」。「アサギチャボ」でキジ目キジ科ヤケイ属セキショクヤケイ亜種ニワトリ Gallus gallus domesticus の改良品種であるチャボの、やはり改良品種の一種。こちらの画像の一番下に写真がある。現行でも「矮鷄」で「チャボ」と読むが、これは同品種群が一般のニワトリよりも小型(♂七三〇グラム・♀六一〇グラム程を標準体重とする)であることに由来する。チャボは足が非常に短く、尾羽が直立しているのを特徴とする。
「黲素色」「さんそしよく」(或いは最後は「いろ」と訓で)と読んでいるか。「黲」は薄青黒い色の意、「素色」は本来は薄い色のついた白色であるが、やや薄い灰色から濃いグレーまでも含む色名である。前注にリンクした写真を見ると、「黲素色」なる感じが如何にも腑に落ちる。