民謠 リルケ 茅野蕭々譯
民謠
リルケ 茅野蕭々譯
私を大變に動かす
ボヘミアの民謠の節。
あれがそつと忍び込むと
私の心は重くなる。
馬鈴薯掘りの子供が
そつと歌ふと、
その歌はなほ
夜の遲い夢にも響く。
國を越えて遠くへ
旅をしてゐても、
幾年か經た後でも、
いつもそれが思ひ出される。
[やぶちゃん注:「ボヘミア」(ラテン語:Bohemia・チェコ語:Čechy(チェヒ)・ドイツ語:Böhmen(ベーメン))は現在のチェコの西部と中部地方を指す歴史的地名(古くは、より広くポーランド南部からチェコ北部にかけての広域地方を指した)。ウィキの「ボヘミア」によれば、『西はドイツで、東は同じくチェコ領であるモラヴィア、北はポーランド(シレジア)、南はオーストリアである』。『牧畜が盛んで』、『牧童の黒い皮の帽子に皮のズボンにベストは、オーストリア帝国の馬術や馬を扱う人たちに気に入られた。このスタイルは、オーストリアと遠戚関係にあるスペインを経て、アメリカのカウボーイの服装になったといわれる。西欧にも伝わり、芸術家気取り、芸術家趣味と解されて、ボヘミアンやボヘミアニズムという言い方も生まれた』。同地方出身者で知られた人物としては、フランツ・カフカ、マックス・ブロート(作家。カフカの友人でカフカの全集の編集刊行者としもとみに知られる)、ボヘミア楽派の始祖ベドルジハ・スメタナ(代表作「わが祖国」はボヘミアの風景を題材とする)、ボヘミア楽派の一人であるアントニン・ドヴォルザークなどがいる。ウィキの「チェコの音楽」によれば、ボヘミア民謡は拍節構造が明確であるとする。本邦で知られたものでは、「ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ」の原曲はボヘミヤ民謡であるともされる。現行では純粋なボヘミア民謡を聴くことはなかなか困難なようである。近藤氏の「ZeAmi ブログ」の「ボヘミア民謡を探して」で、それらしいものを聴くことが出来る。
なお私は、ボヘミア民謡というと、直ちに浦沢直樹の「PLUTO」(プルートゥ)(手塚治虫の「鉄腕アトム」の中の「地上最大のロボットの巻」の優れたインスパイア作品)の「ノース2号の巻」で作曲家ダンカンの幼き日の記憶の中の母の歌ったそれを思い出すのである。同作を御存知ない方は是非、読まれんことを(同パートだけでもほぼ完全に完成された独立作として読むことが出来る)強くお勧めする。私は以前、ブログ・カテゴリ「プルートゥ」で同パートの解析を行っている。そちらも御笑覧あられると嬉しい。]
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