和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蟪蛄(つくつくはうし)
くつくつはうし 蛁蟟 蜒蛛
螇螰 蛥蚗
蟪蛄
【和名久豆久豆保宇之】
ホイ クウ
本綱蟪蛄青紫色蟬秋月鳴者也
△按小於蟬而畧團其頭褐色身及羽淺青色鳴聲如言
久豆久豆法師故名之關東則多有而畿内希
*
くつくつはうし 蛁蟟 蜓蚞
螇螰 蛥蚗
蟪蛄
【和名「久豆久豆保宇之〔(くつくつばふし〕」。】
ホイ クウ
「本綱」、蟪蛄は青紫色の蟬。秋月、鳴く者なり。
△按ずるに、蟬より小さくして、畧〔(ほぼ)〕團〔(まる)〕く、其の頭、褐色、身及び羽、淺青色。鳴き聲、「久豆久豆法師」と言ふがごとし。故に之れを名づく。關東には則ち、多く有りて、畿内には希なり。
[やぶちゃん注:セミ科セミ亜科ツクツクボウシ族ツクツクボウシ属ツクツクボウシ Meimuna opalifera。但し、良安が最後で「關東には則ち、多く有りて、畿内には希なり」と言っているのは不審である。本種は温・亜熱帯性の分布を示すからで、ウィキの「ツクツクボウシ」によれば、『北海道からトカラ列島の』横当島(よこあてじま:鹿児島県のトカラ列島最南端ある無人島)『までの日本列島、日本以外では朝鮮半島、中国、台湾まで、東アジアに広く分布』し、『平地から山地まで、森林に幅広く生息する。地域によっては市街地でも比較的普通に発生する(盛岡市など)が、基本的にはヒグラシと同じく森林性(湿地性)であり、薄暗い森の中や低山帯で多くの鳴き声が聞かれる。この発生傾向は韓国や中国でも同様である。成虫は特に好む樹種はなく、シダレヤナギ、ヒノキ、クヌギ、カキ、アカメガシワなどいろいろな木に止まる。警戒心が強く動きも素早く、クマゼミやアブラゼミに比べて捕獲が難しい』。成虫は七月から『発生するが、この頃はまだ数が少なく、鳴き声も他のセミにかき消されて目立たない。しかし他のセミが少なくなる』八月下旬から九月上旬頃には『鳴き声が際立つようになる』。九月下旬には『さすがに数が少なくなるが、九州などの西南日本では』十月上旬に『鳴き声が聞かれることがある』とある。なお、『ツクツクボウシはアブラゼミやニイニイゼミと比べて冬の寒さに弱いので、元来北日本では川沿いのシダレヤナギ並木など局地的にしか分布していなかった。しかし近年、盛岡や仙台においてこのセミが増えつつある。特に盛岡ではアブラゼミが激減している(仙台でもかなり減少している)が、ツクツクボウシは逆に増えている。これは地球温暖化が原因と考えられるが、生態学的に優位な立場にあるアブラゼミの数が減ったことで、ツクツクボウシが繁殖しやすくなったという原因もある』。『なお、青森市や八戸市でもアブラゼミが激減(ほぼ消滅)しているが、盛岡や仙台と異なり今のところツクツクボウシが増加する兆候はない。これは、盛岡などと異なり盛夏でもあまり暑くならない青森県の気候が原因と考えられている。 本種は本来北海道には生息しないとされてきたが』近年、進出が確認され、『各地で鳴き声が聞かれるようになった』ともある。この引用にある、ツクツクボウシの「鳴き声」が「他のセミにかき消されて目立たない」という叙述から、或いは良安はかく誤認したものかも知れない。所謂、蟬が蟬らしく鳴く時期だけに蟬に耳を傾ける、インセクタ―でない通常人であった良安には、「蟬」の季節が過ぎた時期の彼らの鳴き声に注視しなかったか、その頃にならないと聴こえないから、実は数が少ないと誤認していたものかも知れない。因みに、寺島良安は大坂城の御城入(おしろいり)医師を勤めていたから、彼はまさに「畿内」の人間であったのである。
「くつくつ」は副詞で、おかしくてたまらず、押しころすようにして笑う声を表わすオノマトペイア(擬音語)であろう。但し、他にも同語は物の煮えたつ音を表したり、ふざけてくすぐる際の「こちょこちょ」という擬態語の他、痰などが咽喉につかえて鳴る音を表す擬音語でもあるから、そうした意味の複合可能性も考えるべきかもしれない。
「蛁蟟」「蜓蚞」「螇螰」「蛥蚗」漢名なので歴史的仮名遣で表記する意味をあまり感じないから、ここで東洋文庫版を参考に現代仮名遣で順に示す。「ちょうりょう」「ていぼく」「けいろく」「せつけつ」。]
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