(夕ぐれは私の書物。花緞子の) リルケ 茅野蕭々譯
(夕ぐれは私の書物。花緞子の)
リルケ 茅野蕭々譯
夕ぐれは私の書物。花緞子の
朱の表紙が眼もあやだ。
私はその金の止金(とめがね)を
冷たい手で外(はづ)す。急がずに。
それからその第一ペエヂを讀む、
馴染み深い調子に嬉しくなつて――
それから第二ペエヂを更にそつと讀むと、
もう第三ペエヂが夢想される。
[やぶちゃん注:「花緞子」辞書では「くわどんす(かどんす)」の読みを示すが(「どんす」が音だから主旨は判る)、私は「はなどんす」と読みたい。花文様を織り出した緞子のこと。「緞子」は繻子織り(しゅすおり:経(たて)糸と緯(よこ)糸の交わる点を少なくして布面に経糸或いは緯糸のみが現われるように織ったもの。布面に縦又は横の浮きが密に並んで光沢が生すると同時に肌触りもよい高級織布。)の一つ。経繻子(たてしゅす)の地にその裏織り組んだ緯繻子(よこしゅす)によって文様を浮き表わした光沢のある絹織物。室町中期に中国から渡来した。なお、「どん」も「す」も孰れも唐音である。]
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