自殺者の歌 リルケ 茅野蕭々譯
自殺者の歌
リルケ 茅野蕭々譯
ではもう一瞬間だ。
人々がいつも私の紐を
切るとは。
この間も私はよく用意をして、
もう一片の永遠は
私の臟腑の中に入つてゐたのだつた。
人々は私に匙を差しつける、
あの生命の匙を。
いいや、私は、私はもういらない。
私に私を捨てさせてくれ。
私は知つてゐる。人生は全くてよい、
世界は充ちてる壺だ。
しかしそれは私の血には入らないで
ただ頭に騰るんだ。
それは他人を養ふが、私をば病氣にする。
それを蔑(さげす)むのを、解つてくれ、
少くとも私は今
一千年間衞生が必要だ。
[やぶちゃん注:「騰る」「あがる」或いは「のぼる」。後者で私は読む。]
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