一一 リルケ 茅野蕭々譯 (「冠せられた夢」の「夢みる」の第十一)
一一
リルケ 茅野蕭々譯
一體私はどうしたのかしら。
そよ風の匂の靄の中に、
靑銅褐色の草の莖の中に
失われた蟋蟀の歌。
私の魂の中にもひびく、
低い一つの響、哀れになつかしい――
恐らく熱病の小兒が、
死んだ母の歌ふのを聞くのも斯うだらう。
[やぶちゃん注:本詩篇は一八九六年刊のリルケの詩集「冠せられた夢」(茅野訳の標題。茅野はそこで発刊年を『一八九七年』としているようだが、誤り。原題は“Traumgekrönt”で、諸氏の訳では「夢を冠に」「至上の夢」「夢を戴きて」などとも和訳されてある)の「夢みる」詩群の中の第十一章である。「靑銅褐色」は原詩では“bronzebraunen”で、「ブロンズ・ブラウン」。この色。]

