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2016/12/12

夢野久作 日記内詩歌集成(Ⅴ) 昭和四(一九二九)年 (下半期)

 

 七月四日 木曜 

 

春まひるたゞ片時のうたゝねに

 花亂れ散る夢を見てしか

 

 

 

 七月十二日 金曜 

 

◇山奥の赤土の丘ぞ悲しけれ

  旅人の來て立ちて靑空をあふくことも稀なり

 

 

 

 七月十九日 金曜 

 

◇はるかなる心をいだき地に伏して

  身を切るごとき淚なかすも

 

◇ましろなる道を自働車よりゆきて

  ほこり光りて秋づきにけり

 

[やぶちゃん注:「なかすも」はママ。]

 

 

 

 七月二十日 土曜 

 

◇一直線に切り取られたる靑空の

  大建築にたふれかゝるも

 

◇二等車はイヤな氣がする

  強盜に殺されそうな奴ばかり乘る

 

[やぶちゃん注:「そうな」はママ。]

 

 

 

 七月二十一日 日曜 

 

◇あの晩の車軸を流す大雨が

  彼女の貞操を洗ひ去つた

 

◇カーキ色の武官ひとりかへり來る

  まひるの道に紫蘇の葉光る

 

 

 

 八月十二日 月曜 

 

引く蟻を見てゐる己が力瘤

 

 

 

 八月二十三日 金曜 

 

◇わが心狂ひ得ぬこそ悲しけれ

  狂へと責める便をながめて

 

 

 

 八月二十七日 火曜 

 

◇わるいもの見たろ思ふて立ちかへる

  彼女の室の挘られた蝶

 

[やぶちゃん注:「挘られた」「むしられた」。これは同年七月号『獵奇』の「獵奇歌」に既に、

 

わるいもの見たと思うて

立ち歸る 彼女の室の

挘られた蝶

 

の形で発表済み。]

 

 

 

 八月二十九日 木曜 

 

◇日が照れば子供等は歌をうたひ出す

  俺は腕を組んで反逆を思ふ

 

[やぶちゃん注:これは同年七月号『獵奇』の「獵奇歌」に既に、

 

日が照れば

子供等は歌を唄ひ出す

俺は腕を組んで

反逆を思ふ

 

の形で発表済み。]

 

 

 

 九月三日 火曜 

 

晴れ渡る空肌寒く星多し

 野に泣きにゆく女あるらむ

 

 

 

 九月十一日 水曜 

 

◇杉の聲夜每に近く蟲の聲

  夜每に遠く冬になりゆく

 

 

 

 九月十二日 木曜 

 

秋の夜の夢は間近く又遠し

 千切れ千切れに風の音して

 

汽車の音聞き送りつゝ佇める

 野山の涯に秋ふかみける

 

[やぶちゃん注:「千切れ千切れ」の後半は底本では踊り字「〱」。なお、この二首の後に、『雲低く風寒く、小鳥松の間を彼方こなた飛ぶ。影の如く、折々日パツと照り、鷹キツピーと啼く。夜に入り蟲の音滋し。』という文が書かれて、この日の日記(冒頭に歌とは無縁のメモランダ二行有り)は終わっている。]

 

 

 

 九月十三日 金曜 

 

◇何者か殺し度い氣持ち只一人

  アハアハアハと高笑ひする

 

◇殺しても殺してもまだ飽き足らぬ

  憎い彼女の橫頰ほくろ

 

[やぶちゃん注:「アハアハアハ」後半の二つの「アハ」は底本では踊り字「〱」、「殺しても殺しても」の後半も同。なお、第一首は同年七月号『獵奇』の「獵奇歌」に既に、

 

何者か殺し度い氣持ち

たゞひとり

アハアハアハと高笑ひする

 

で、第二首も同じ号に、

 

殺しても殺してもまだ飽き足らぬ

憎い彼女の

横頰のほくろ

 

の形で発表済み。]

 

 

 

 九月二十三日 月曜 

 

大廂鬼瓦の伸びる夕日かな

 

[やぶちゃん注:直前に「權藤氏論」とあるが、これは久作の句と判断した。]

 

 

 十月十日 木曜 

 

筋に泣かさるゝ人形多し

 人形の格に泣かさるゝ芸は些し。

 

[やぶちゃん注:文楽鑑賞の感懐か? 句点は打たれているいるものの、短歌形式で独立して書かれているので採用した。]

 

 

 

 十一月十七日 日曜 

 

鷄頭の枯れてもつゝく日和哉

 

[やぶちゃん注:「つゝく」はママ。直前の日記末に、「午后、稽固。稽固場の鷄頭、枯れ枯れなり。」と記している。謠に稽古場の前庭の嘱目吟。]

 

 

 

 十一月二十五日 月曜 

 

◇親の恩に一々感じて居たならば

  親は無限に愛しられまじ

 

◇一ツ戀かそんなに長くつゝくものか

  空の雲でも切れわかれゆく

 

[やぶちゃん注:「つゝく」はママ。第一首は二年後の昭和六(一九三一)年三月号『獵奇』の「獵奇歌」で、

 

親の恩を

一々感じて行つたなら

親は無限に愛しられまい

 

形で発表されることとなる。]

 

 

 

 十一月二十五日 月曜 

 

◇心から女が泣くのでそれよりは

  生かして置いてくれやうかと思ふ

 

◇人間の屍體をみると何がなしに

  女とふざけて笑つてみたい

 

[やぶちゃん注:第一首は、二年後の昭和六(一九三一)年三月号『獵奇』の「獵奇歌」で、

 

梅毒と

女が泣くので

それならば

生かして置いてくれようかと思ふ

 

と改稿されて載り、第二首は、翌昭和五(一九三〇)年四月号『獵奇』の「獵奇歌」に、

 

人間の屍體を見ると

何がなしに

女とフザケて笑つてみたい

 

の形で載ることとなる。]

 

 

 

 十二月六日 金曜 

 

◇飛び出した猫の眼玉を押しこめど

  どうしても這入らず喰ふのをやめる

 

◇五十戔貰つて一つお辭儀する

  盜めばせずに済むがと思つて

 

◇うちの嬶はどうして子供を生まぬやら

  乞食女は孕んでゐるのに

 

[やぶちゃん注:第一首は、翌昭和五(一九三〇)年四月号『獵奇』の「獵奇歌」に、

 

飛びだした猫の眼玉を

押しこめど

ドウしても這入らず

喰ふのをやめる

 

と載り、第二首も同号に、

 

五十錢貰つて

一つお辭儀する

盜めば

お辭儀せずともいゝのに

 

と改稿して載せる。]

 

 

 

 十二月六日 金曜 

 

◇メスの刃にうつりかはりゆく肉の色が

  お伽話の花に似てゐる

 

◇新婚の花婿が來てお辭儀する

  顏上げぬうち踏み潰してみたし

 

[やぶちゃん注:第一首は、翌昭和五(一九三〇)年四月号『獵奇』の「獵奇歌」に出る、

 

メスの刄が

お伽ばなしを讀むやうに

ハラワタの色を

うつして行くも

 

の初稿と思われる。]

 

 

 

 十二月二十一日 土曜 

 

草に來て草の色してスウヰツチヨ

 ある夜の月に霜に枯れしかと書き送る

 

[やぶちゃん注:「スウヰツチヨ」直翅(バッタ)目キリギリス亜目キリギリス科ウマオイ属ハヤシノウマオイ Hexacentrus japonicus の異称。私は「スイッチョン」と呼ぶ。和名は「馬追」はその鳴き声が馬子が馬を追う声のように聴こえることに基づく。本種は「スィーーーッ、チョン」と長く伸ばして鳴くが、見かけは同一でも鳴き声が「シッチョン、シッチョン」と短く鳴くのはハタケノウマオイ Hexacentrus unicolor という近縁の別種である。]

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