■やぶちゃん版村山槐多短歌集成 大正八(一九一九)年 / 村山槐多短歌集成~了
□大正八(一九一九)年
ルノアールのくれなゐの頰をもちながらさびしきさちよさびしきさちよ
――一月の女らより
[やぶちゃん注:「さちよ」終助詞附きの一般名詞「幸よ」かと思われる。そう考える理由は彌生書房版全集年譜の大正八年の条に、当時、最後(槐多は同年二月十八日に家を出、叢の中に倒れているのを発見されたが、治療の甲斐なく、同二十日午前二時に逝去した)の棲家となった借家のあった代々木村に『「さわちゃん」という』ハンセン病を患っていた『村娘の美しさに心を奪われた』という一節があるからである。]
この小女澄みたる水に似たるゆゑわれらが酒も澄みてさめゆく
[やぶちゃん注:「小女」はママ。全集は「少女」と消毒する。]
花やかの笑の底にひそみたる淚を見つつわれ等も笑ふ
汝ほどに淸き少女を知らざりき萬葉集のはじめの外に
汝が爲に御空の色の半襟をこの月末はわすれざるべし
われらかく濁りし事をなとがめそ汝が店にうるウイスキーのごとく
この年はそなたのごとく善くあれよそなたの如くまづしくもあれ
停車場の汽車のひびきをききつつもわれらが戀のことばをもきけ