譚海 卷之二 螢火丸まむしを療する事
螢火丸まむしを療する事
○官家(かんか)御鷹匠衆いへるは、遠國御用の節、まむしにさされなどする療治の用意には、螢火丸(けいくわぐわん)を所持し、そのまゝかみてつばにてぬりつくれば、よろしきもののよし物語り也。
[やぶちゃん注:「官家御鷹匠衆」ここの「宮家」は「高貴な家柄」で将軍家の代名詞。幕府の鷹匠衆は若年寄支配で、鷹の飼養・調練・鷹狩の一切を取り仕切った。
「遠国御用」狭義には、御庭番が幕臣の身分を隠して遠国の実情調査に出かけること、則ち、隠密行動をとることを指すが、ここは鷹調教のために、鷹を連れて地方の山野で訓練をさせることを指すのであろう。
「まむし」爬虫綱有鱗目ヘビ亜目クサリヘビ科マムシ亜科マムシ属ニホンマムシ Gloydius blomhoffii。
「螢火丸」漢方サイトを縦覧する限りでは、「螢火」は実際の昆虫綱鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コメツキムシ下目ホタル上科ホタル科 Lampyridae のホタル類を乾燥させた生薬のように読める。調べてみると、ホタル類にはヒキガエル(ガマ)が持つ強毒成分であるステロイド配糖体の強心配糖体ブファジエノライド(bufadienolide)が含まれるから、「毒を以って毒を制す」式の本草的理解では多少、腑には落ちぬこともない。]
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