孤獨 リルケ 茅野蕭々譯
孤獨
リルケ 茅野蕭々譯
孤獨は雨のやうだ。
大海から夕ゆふべを迎へて上る。
遠く隔たつた平野から
孤獨は天へゆく、天はいつも孤獨を持つてゐる。
そして天から始めて都會の上へ落ちる。
すべての街が東に向くとき、
そして何物をも見出さなかつた肉體と肉體とが
失望して悲しげに離れる時、
晝夜の間の時間に雨と降る。
そして互に嫌つてゐる人間が
一つ床に一緒に寢なければならない時
その時孤獨は流河と共に行く……
[やぶちゃん注:「夕ゆふべを」は「ゆふべゆふべを」で、「毎日の夕べを」の意。これは底本校注でもそう読みを推定し、さらに底本で先行する訳詩篇「祈りの後」を前例として指示する。そこでは「朝あさ」(「朝の来る毎に」の謂い)という訳表現も用いられている。次回、当該詩を示す。この表記法は奇異でも何でもない。読者に「夕夕」或いは「夕々」と書いて「ゆふゆふ」と読まれたくなく、ルビを振るのも厭な場合には、こう書くのは自然である。現行の表記法で「一人ひとり」と書くのと同じである(但し、この「一人ひとり」を絶対の正規表現として、若い人が書いているのを見たりすると、私は微苦笑するのを常としている。]