小穴隆一「二つの繪」(36) 「影照」(11) 『「無限抱擁」のヒロイン』
「無限抱擁」のヒロイン
瀧井孝作が「無限抱擁」のヒロインと湯島に世帶をもつて、そのヒロインが髮結いさんをはじめた。芥川は、「女房をやつて、さきに髮を結つて貰つてから芥川の家内であると言つて祝ひを述べさせた、」と言つてゐた。
[やぶちゃん注:志賀に私淑しつつも『芥川の弟子と目され、小島政二郎・佐佐木茂索・南部修太郎とともに「龍門の四天王」と呼ばれた』瀧井孝作(明治二七(一八九四)年~昭和五九(一九八四)年:芥川龍之介より二歳年下)はウィキの「瀧井孝作」によれば、大正八(一九一九)年、『時事新報の文芸部記者として芥川龍之介を知った』とあり、それに続けて『吉原にいたことのある榎本りんと結婚し』ているとあるから、以上はこの頃のことである。大正一〇(一九二一)年二十七歳の時、専業作家となり、後に「無限抱擁」纏めることになる『小説の雑誌掲載を始めた』が、翌大正十一年、『そのヒロインのりん』は亡くなってしまう、とある。実はこの年の大正八(一九一九)年十一月二十三日、小穴隆一はまさにこの瀧井孝作に連れられて田端の芥川邸を訪れ、以後、終生無二の親友となったのであった。長編小説「無限抱擁」は私は読んだことがないので、小学館の「日本大百科全書」の紅野敏郎氏の解説を引く。『新小説』掲載の『竹内信一』(大正一〇(一九二一)年八月)・『改造』掲載の「無限抱擁」(大正一二(一九二三)年六月)・『新潮』掲載の「沼辺(ぬまべ)通信」(大正一二(一九二三)年八月)・『改造』掲載の「信一の恋」(大正一三(一九二四)年九月)という、それぞれ独立した四短編を合わせて長編に仕立てたもので芥川龍之介自死直後の昭和二(一九二七)年九月に改造社より刊行された。『主人公信一は滝井孝作自身で、正真正銘の自伝的私小説。吉原で見そめた松子との愛情、その松子と彼女の母との』三『人暮らし、松子の結核による死の経緯が、勁(つよ)いストイックな文体で、詩情を含みつつ剛直に述べられている恋愛小説の傑作。俳句によって鍛えた写生の力と、省略による飛躍の力のみなぎる息苦しい文体だが、その真率な心情は読者に深いおもりを下ろす。滝井孝作の初期の代表作であるとともに近代の恋愛小説のなかの白眉』とある。]
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