小穴隆一「鯨のお詣り」(24) 「二つの繪」(13)「妻に對する」
妻に對する
僕にとつてその樂しい「死ぬ話」を、來る日もくる日も聞かせる彼は、
「僕の女房は全く自分には過ぎた者だ。」
淚を湛へて必ずさう繰返してゐた。
と、またその一方では、妻も亦、己(おのれ)の如く過去に過失を持つてゐてくれる女であれば、又、今日(こんにち)に於いて、或は先にいつでも過失を犯してくれるやうな人間であつてさへくれるのなら、如何程(いかほど)自分の今日(こんにち)の氣持ちは救はれるか、‥‥と搔口説(かきくど)く彼でもあつた。
[やぶちゃん注:前章同様、「二つの繪」の「妻に對する、子に對する、」という章題で纏めたものの一部の原型。]
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